共働き?専業主婦? 悩むママに精神科医が伝えたい、どちらに進んでも後悔しないための「守るべき約束」

佐々木正美
2026.03.30 13:28 2026.04.07 11:50

身支度する男の子とママ

専業主婦でいるか、仕事に復帰するか。子どもとの時間を大切にしたい気持ちと、キャリアへの焦りのあいだで揺れる人は少なくありません。

共働き家庭で育ち、寂しさを感じた経験をもつ母親からの相談に、精神科医の佐々木正美先生はどのような視点を示したのでしょうか。『この子はこの子のままでいいと思える本』よりご紹介します。

※本稿は、佐々木正美(著)『この子はこの子のままでいいと思える本』(主婦の友社)より一部抜粋、編集したものです。

仕事に復帰するかしないかを迷っています

(小1男の子・3才女の子の母)

わたしは看護師という仕事をもっています。長男の出産後も6カ月で復職し、長女の出産前まで勤務していました。その後、長女の出産を機に専業主婦となり、いつかは仕事に戻りたいと思いつつ現在に至ります。

わたしの両親は共働きでした。小学生のときは「カギっ子」で、運動会や学校公開に母が来てくれたことはありません。休日もいっしょに過ごせないことが多くて寂しい思いをしたため、子どもとふれ合う時間が多い現在の生活にそれなりの意義を感じています。同時に、仕事のブランクが長くなると復帰できないのでは?というあせりもあります。

子どもたちのために、このまま専業主婦でいたほうがいいのか悩んでいます。また、仕事に復帰するとすれば、どんなタイミングがいいのでしょうか。

専業主婦でいるのも、看護師に戻るのもお母さん自身の決断です。「子どものせい」にだけはしないことです

どちらかを選んだとしても再選択のチャンスは必ず来ます

手つなぎ

とても難しいご相談だと思います。十人いたら十通りの回答があるでしょうし、仕事と子育てが両立させられるのか、子育てに専念したほうが自分らしくいられるのかは、本当に人それぞれだからです。ですから「ご自分で決めるしかありません」と言うしかないのですが、それだけでは何の役にも立ちませんので、わが家の例をお話ししたいと思いす。

わたしの家内は私立小学校の音楽教諭で、その仕事にとてもやりがいをもっていました。わたしがカナダに留学するときにいったん仕事を辞めたのですが、2年以内であれば復職できることになっていました。しかし帰国したとき、家内のおなかには長男が宿っていました。家内は復職せず、専業主婦になる道を選びました。そのときにわたしは、一つだけ家内に確認しました。それは「本当は音楽教諭の仕事に戻りたかったけれど、この子のためにあきらめた、なんて言われたら、子どもがたまらない気持ちになるよ。そのようなことはないね」ということです。もしもこの方が専業主婦を続けるのであれば、同じ言葉を自分に問いかけてみてください。子どもに責任を負わせるような選択だけは、どうぞしないでください。

家内は子どもが成長したあとで、障害者の音楽療法のボランティアを始め、再び音楽の仕事に戻りました。同じ職場の同じような仕事に戻ったわけではありませんが、やりがいを感じていることは伝わってきます。このような人生もあります。

子どもを預けて働くことを選択する場合にも、心がけてほしいことがあります。まず、子どもを預けて働くことに負い目を感じる必要はないということです。子どもに何か悪影響があるとはまったく思いませんし、実際にそのようなこともありません。

それでも気をつけるべきことはあります。わたしは大学病院で非常勤の医師を20年ほど続けましたが、その間、子育てしながら働く女性医師をたくさん見てきました。わたしは彼女たちに、子どもの精神科医という立場からこんなアドバイスをしてきました。「仕事を終えてお子さんを迎えに行くときに、お医者さんの顔をして帰っちゃいけませんよ。病院を出たら大きく深呼吸して、『わたしはもう医師じゃない、ママなんだ』と気持ちを入れ替えてくださいね」

仕事に復帰したのちは子どもと過ごす時間を第一に考えてください

笑顔の女の子

これは、わたしも実行していたことです。子どもは「お医者さん」ではなく、「ママ」や「パパ」を待っているのです。それは看護師さんでも、学校の先生でも、どんな仕事でも同じです。職場の顔、職場でのストレス、職場のあれこれは、けっして子どものいる場所に持ち込まないことです。いちばんよくないのは、「お母さんは働いて疲れているんだから、あれこれ要求しないで」という気持ちになることです。働くことを選んだのは自分です。そのしわ寄せが子どもにいってはいけません。子どもと接する時間が長ければいいというわけではありませんが、短ければ短いほど、その時間の充実度を重視してください。

子どもを預けた場合、そこのスタッフと親はどうぞ仲よくしてください。預け先が祖父母であっても同じです。不思議なもので、親が預け先の人を信頼していればいるほど、赤ちゃんであっても、その場所でのびのび過ごすことができるのです。

復帰する時期については一人一人違いますから、一般論で言えることではありません。「〇才までは母親の手で育てるべき」などという説もありますが、根拠のないことです。自分で「ああ、そろそろだな」と思うときが来れば、それがベストタイミングなのです。自然につぼみがふくらんで花が咲くように、そのときはきっと来ます。

働き始めることが決まったら、お子さんには説明してあげるといいですね。「ママはお仕事がんばるから、協力してね」と真剣に伝えれば、子どもは幼くても理解します。ママを助けてあげられることを、うれしく思うでしょう。

お子さんに働く姿を見てもらうのも、とてもいいと思います。看護師さんであれば、ご主人や祖父母にお願いして、職場である病院に連れて来てもらうのはいかがでしょう。看護師姿のお母さんを見て、お子さんは誇らしく思うでしょう。わたしも子どものころに、野良仕事をする父や母の姿を目で追いながら、心から誇らしく思ったものです。子どもは、そういうものなのです。

佐々木正美

佐々木正美

昭和10年前橋市生まれ。昭和42年、新潟大学医学部卒業。東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学児童精神科に留学し、児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園(重度知的障害児居住施設)や東京大学精神科助手を経て、神奈川県児童医療福祉財団・小児療育相談センターに所長として20年間勤める。その間、東京大学精神科、東京女子医科大学小児科、お茶の水女子大学児童学科等で非常勤講師、ノースカロライナ大学で非常勤教授を務める。川崎医療福祉大学特任教授、横浜市総合リハビリテーションセンター参与などを歴任。2017年没。著書に『子どもへのまなざし』(福音館書店)など多数。