中学生の子どもが、興味本位で性行為をしないか心配【親子のための性教育(2)】
中高生の子どもに好きな人ができ、お付き合いを始めたら、どのように見守っていくべきでしょうか。子どもの成長を感じる反面、予期せぬ妊娠が心配になるのも親としては自然なことです。
「こんな時どうすれば?」という切実な悩みについて、看護師であり性教育講師として活躍されているおさだしずこ先生に、専門家の立場からお答えいただきます。
(イラスト:おがたちえ)
中学生の子どもに彼氏・彼女ができた
「中学生の子どもにお付き合いをする人ができました。あたたかく見守りたい気持ちはあれど、興味本位で性的な行為をしないか心配です。最低限、避妊だけは絶対にしてほしいのですが、親からどう伝えていいのかわかりません。」
知って欲しい3つのポイント
保護者の方の多くが、「予期せぬ妊娠はしないように・させないように」という思いから、このような相談をされます。
学生の妊娠に対しては「人生台無し」「不幸になる」と、ネガティブな思考になりがちです。
私も5人の子ども達の母なので、お気持ちはよくわかります。わが子の幸せを願うからこそ伝えたい。でも、どう伝えたらいいかわからないですよね。
子どもたち自身にも、そして保護者の方にも知っておいてほしいこととして、3つのポイントがあります。
1.何歳であろうと、月経(生理)のある人と射精できる人が性行為をしたら、妊娠する可能性がある
2.避妊の正しい知識について
3.万が一妊娠した場合の選択肢や対策を知り、自分ごととして考えてみる
ひとつずつ解説していきます。
1.何歳であろうと、月経(生理)のある人と射精できる人が性行為をしたら、妊娠する可能性がある
「どうしたら妊娠するか」については、実は学校では学びません。精子と卵子、射精と月経については学びますが、受精に至る過程・つまり妊娠に至る過程は扱わずに、人の誕生を学ぶのが今の日本の学校での性教育です。
「受精・妊娠に至る過程は、小中学校では取り扱わない」という、文科省が定めた歯止め規定が存在するためです。
精子と卵子がどうやって出会うか、子どもが疑問に思うことは、むしろ当然だと思います。
その疑問に、正しい知識で答えられる大人が身近にいることが理想であり必要なことです。
大人も学んでいないので、伝え方に迷うとは思いますが、例えば、「男の人のおちんちんを女の人の膣に入れることで、精子を卵子に届けるんだよ」など、科学的に事実をそのまま伝えてあげましょう。
また、「例え小中学生同士であっても、たった一回でも、月経(生理)のある人と射精できる人が性行為をしたら、妊娠する可能性がある」ということを、子ども自身が理解することが大切です。だからこそ、興味があるというだけで性行為をしてはいけないということを、保護者の方から伝えてあげて良いと思います。
子どもに彼氏・彼女できたからと言って、突然、「興味本位で性行為しないでよ!」と頭ごなしに言うのは逆効果です。そもそも、性の話は伝え方が難しいと感じてる方が多いですし、話したとしても素直に聞いてくれるかどうか不安に感じる保護者の方も多いと思います。
「子どもとこんな話をするのは抵抗がある」「学校で教えてほしい」「わが子がどこまで理解しているか心配」「知らないまま妊娠してしまうようなことになったらどうしよう…」
そんな不安を感じているのであれば、保護者の方がご自身の気持ちと向き合ってみてください。何を自分は恐れているのか…。そう思うのはなぜか…。
高校生になれば、学校で性行為や避妊について学ぶ機会がありますが、それでも親としての不安は完全にはなくならないかもしれません。
だからこそ、ご自身の気持ちを整理したうえで、お子さんに伝えたいと思うことは、そのままの言葉で落ち着いて伝えてあげてください。
子どもたちは、1番身近な大人である保護者の方からの言葉の影響を大きく受けます。また、「自分に関心を持ってもらえている」「大切にされている」と実感することは、子どもにとって嬉しいものです。
そして、最も大切なのは、お子さんの話をしっかり聴くことです。どんな正論でも、大人が言いたいことばかりを、頭ごなしに話すだけでは、子どもは聞いてくれません。まずはお子さんの話をとにかく良く聴く。お子さんの気持ちに寄り添う。うんうんと聴いて一旦受け止める。これにつきます。自分を認めてもらえていることが伝わっていれば、子どもは自分の話をしてくれるようになり、親の話も聴いてくれます。一見、聞いていないように見えても、意外としっかり覚えているものです。
2.避妊の正しい知識について考えてみる
日本で最も多く使われている避妊具であるコンドーム。
しかし、その正しい装着方法を、学校の授業で学ぶ機会はほとんどありません。
婦人科看護師として病院の現場にいると、大人の女性でもコンドームの正しい付け方や、装着の適切なタイミングを知らない方が意外と多い現実に直面します。そのため、義務教育の段階で男女共にコンドームの正しい装着方法を学ぶことは大きな意味があると考えます。
近年では、保健の先生や外部講師が、 中学校でコンドームの装着方法を教えるケースも少しずつ増えていますが、多くの学校では依然として実施できていないのが現状です。これは、先生や保護者の中に反対する人が多い場合や、過去の性教育バッシングによる戸惑いも原因と考えられます。
しかし、子どもを守るのは大人の役割です。
正しい知識を伝えず、いざ問題が起こったときに子どもを非難するのは違うと思うのです。
「自分たちも誰からも教わらなかったから、学校で教える必要はない」という意見もあります。特に、具体的な性教育に対して抵抗感を持つ大人ほど、その必要性を認めない傾向があります。
「具体的に教えると、子どもが性行動に興味を持つのではないか」
「“寝た子を起こすな”という考えがある」
こうした意見も根強いですが、実際には子どもたちはすでに性に興味を持っている子が多いです。
それは自然なことであり、決しておかしなことではありません。
性に興味を持った子どもが、その疑問を信頼できる大人に聞ければ良いのですが、聞きづらかったり、大人が答えてくれなかった場合、子どもたちはインターネットやSNSの世界に答えを求めます。
正しい情報にたどり着ければ良いのですが、間違った情報を鵜呑みにしてしまうケースも少なくありません。これは、子どもだけでなく大人にも当てはまる、日本の悲しい現状です。
だからこそ、誤った知識のまま行動してしまう前に、正しい情報を学ぶ機会が必要です。
学校は、友達と一緒に学ぶことができる場であり、またすべての子どもが平等に教育を受けられる義務教育の場でもあります。
本来であれば、義務教育の段階で、正しい性の知識を学べる環境を整えることが、とても重要なのです。
世界の性教育の基準は、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」によって定められています。
このガイダンスでは、年齢別に学習目的と内容が設定されており、 世界基準の性教育のスタートは5歳とされています。
幼少期から 段階的に繰り返し学ぶことで、以下のような効果があるとデータで示されています。※
・性交を初めて行う年齢が遅くなる
・性的パートナーの数が減る
・コンドームの使用率が増加する
つまり、 正しい知識を持つことで、性行動に対して慎重になるという科学的根拠があるのです。
一方、日本では 膣外射精を避妊法と誤解している人が多いのが現実です。膣外射精は避妊ではありません。
日本で可能な代表的な避妊方法は、コンドーム以外に、低用量ピル、ミレーナ(IUS)などがあります。
ピルについては、低容量ピルや避妊に失敗した際の緊急避妊薬(アフターピル)を含め、どのピルに対しても否定的な意見を持つ大人が身近にいると、その選択肢を考えること、選ぶことすらできない場合もあります。さらに、ピルを飲むと妊娠できなくなる等の誤った情報を信じている人も多いと、婦人科看護師として強く感じています。
ピルやミレーナについても、自分がどうしたいかという相談ができる病院や身近な大人を探しておくことも大切です。
性に関する知識は、自分自身を守るための重要な情報です。
正しい知識を身につけ、信頼できる人に相談しながら、 「自分の体のことは自分で決めていい」 ということを、ぜひ知っておいてほしいと思います。
3.万が一妊娠した場合の選択肢や対策を知り、自分ごととして考えてみる
もし妊娠した場合にどのような選択肢があるのかを、知識として学び、自分ごととして考えてみることは、子どもにとっても親にとっても大切です。
産む選択・産まない選択、産む場合は育てる選択・育ててもらう選択、産まない場合は妊娠の時期によって対応に違いがあることなどを含め、選択肢として知っておくことは、とても重要です。妊娠したその人にとっての、その時の最善は何か、ということを自分ごととして考えられるかどうか、ということです。
「日本の性教育は海外に比べて遅れている」と言われることが多いですが、その理由の一つとして、予期せぬ妊娠に対する考え方の違いがあると考えます。
世界の性教育の基準である国際セクシュアリティ教育ガイダンスには、「意図しない妊娠は起こるものである」と明記されており、世界基準の性教育ではこの認識のもとで指導が行われています。
しかし、日本では正しい知識を教えないまま、妊娠してしまった若者や学生を大人が非難するケースが少なくありません。
本来、「意図しない妊娠は誰にでも起こりうるもの」という前提に立ち、もし妊娠したときにどのような選択肢があるのかを知っておくことが重要です。
もしもの時にどうしたいか、パートナーと話し合える関係性が築けていることが理想的ですが、最も大切なのは、妊娠した本人の気持ちです。どうしたいかは、妊娠した女性が、自分の気持ちを大切にして決めていいのです。
そして「1人で抱え込まず、誰かに話していい」「身近な大人はあなたに話してほしいと思っている」ということを、ぜひ知っておいてほしいと思います。
「まさか、本当に妊娠するとは思わなかった。」
予期せぬ妊娠をした人の多くが、そう口を揃えます。
そんな若者に対し、大人からよく聞かれるのが、
「学生なのに、そんな無責任なことをして」
という言葉です。
それは不安でいっぱいな当事者に向けてかける言葉としてふさわしいのでしょうか?
辛い思いをしている人に、さらに追い打ちをかけるような言葉になっていないかと、胸がしめつけられる気持ちになります。
仮に「学生のうちは性行為をしてはいけない」として、では、いつなら性行為をしてもいいのでしょうか?
社会人になってから?
結婚してから?
そして、大人になったら、いつでも妊娠していいのでしょうか?
妊娠や出産のタイミングは、他人が決められるものではないと思います。
大人でも、妊娠を望む時期と望まない時期があり、望んだときに必ず妊娠できるわけではありません。
また、誰かのサポートなしに子どもを育てることは、何歳であっても、どんな人にとっても、難しいことです。
人生の中で妊娠が、「タイミングが完璧に合うこと」のほうが少ないかもしれません。
だからこそ、自分がどう考えるのか、どう折り合いをつけるのか、そのうえでどうしたいのかを、誰かと話し合えることが大切です。
親が心掛けておきたいこと
そもそも性行為は、妊娠を望む人だけがするものでしょうか?
性に関する考え方は 人それぞれの経験や価値観によって異なりますが、「妊娠したい人だけが性行為をするもの」という考えは、私は違うと思います。
大人になったからこそ経験者として言えること、わが子だからこそ伝えたいことがあるでしょう。
しかし、それは 価値観を押し付けることとは違います。
親と子供の人権はそれぞれ別のものであり、親の思う幸せと、子供の思う幸せは違うものです。
難しいことですが、親はそのことを受け入れる覚悟をすべきだと思います。
そのうえで、まず、 保護者の方自身が自分の気持ちと向き合ってみてください。
そして、 「お母さん・お父さんはこう思うよ」と、お子さんにご自分の考えを落ち着いて伝えることが大切です。
「あなたはどう思う?」 とお子さんに問いかけ、お子さんの意見を聴いてみることや、落ち着いて話し合うことができれば、より良いと思います。
子どもは、親の所有物ではありません。
親が支配するものでも、言いなりにさせるものでもありません。
価値観を押し付けたり、一方的に決めつけたりするのではなく、 お互いに対話し、考えを共有すること。
「その子にとっての幸せ」という視点で、お子さんを支えていける関係を築くことが大切です。
性教育が 「不幸を避けるためのもの」ではなく、「その人が幸せでいられるための選択肢を学ぶこと」「心も体も幸せになるためのもの」 として、広まることを願います。
※参考文献:【改訂版】国際セクシュアリティ教育ガイダンス 科学的根拠に基づいたアプローチ ユネスコ=編 浅井春夫、艮香織、田代美江子、福田和子、渡辺大輔=訳 明石書店