「毎日仕事が変わる子」はどう生まれた? くどうれいん&100%ORANGE・及川賢治が描く絵本『ぜんぶやりたい まにちゃん』

くどうれいん、及川賢治(100%ORANGE)

この記事の画像(5枚)

やりたいことが多いのはいいけれど、どれも中途半端になってしまいそう…子どもに対して、そんな不安を感じたことはありませんか。

エッセイ、短歌、絵本とジャンルを横断して活躍する作家・くどうれいんさんは、「活動を一つに絞るべきでは」という葛藤を抱えてきたといいます。

そんな思いから生まれたのが、絵本『なんでもやりたい まにちゃん』(Gakken)。
主人公のまにちゃんは、月曜日は歌手、火曜日は消防士と、毎日ちがうお仕事を楽しんでいるのですが、街の人たちはその姿に少し首をかしげます。

タッグを組んだのは、100%ORANGEの一人として、イラストや絵本、漫画など、様々な作品づくりをされてきた及川賢治さん。

多彩な表現を行き来する二人が描いたのは、「一つに決められない」ことを否定しない物語。「ぜんぶやりたい」の気持ちを抱えたまま進むことについて、お二人に話を聞きました。

(取材・文:nobico編集部)

やりたいことを1つに決められない

─この絵本は、誰に向けて書いた作品でしょうか?

くどうれいんさん(以下くどう):絵本に限らずなんですが、あまり「特定の誰か」に向けて書くことはしないようにしています。

いちばん大きいのは、自分のために書きたいという気持ちですね。今回の作品も、振り返ってみると「子どものころの自分に、こう言ってあげたい」という思いが出発点だったと感じています。

─主人公のまにちゃんは、自分のやりたいことを1つに決められない子どもですが、くどうさんご自身も似た感じのお子さんでしたか。

くどう:そうですね、子どものころというか、今がまさにそうです。

エッセイ、短歌、絵本と、いくつかのジャンルで作家活動をする中で、「本当はどれか一つに絞るべきなんじゃないか」というコンプレックスがずっとあって。

実際、「どれが一番好きなのか」と聞かれたこともあり、いずれ一つを選んで他をやめなければいけないのかな、と感じていた時期もありました。でも、それがどうしても嫌で。そのまま全部続けていたら、今のような形になっていました。

それでも「これでいいのかな」「全部中途半端だと思われたら嫌だな」という思いはずっとあって、作家になった今も消えていません。やはりジャンルを1本にしぼって活動している方には、かなわないと思うので。「まにちゃん」を書き始めた背景には、そうした気持ちもあったように思います。

及川賢治さん(以下 及川):ジャンルによって創作に使う能力は違うんですか?

くどう:それが、私の中ではあまり違いがないんです。感覚としては全部つながっていて。それぞれに個性はありますが、まったく別のことをしているという感覚はないんです。

及川:僕も、漫画や絵本もやりますし、挿絵のイラストも描きます。悩んでいるわけではないのですが、くどうさんの「全部中途半端に見られたら嫌だな」という気持ちには共感できます。

僕も仕事によって絵のタッチが変わることがあって、「自分のタッチってどれなんだろう」と分からなくなることもありますが、線で描いたり絵の具で塗ったり色々試しています。

─お二人とも、さまざまな表現をされてきた中で、この絵本でいう「塔」のように、活動の積み重ねが一つの形になっているように感じます。まにちゃんは「塔を建てるぞ」と決心したうえで立てていましたが、お二人はどうでしょうか。

くどう:私は自分で「塔」だと認めているわけではないんですが、思いのほか周りが「塔だ」と言ってくれている、という感覚はあります。

そもそも何をもって塔なのかもよくわからなくて。15歳の文芸部時代からずっと同じことを続けているだけなんですが、バーコードがついた本が出るようになったあたりから、「塔が建った」と言われ始めた気もしていて。少し怖さもあります。

及川:本が積み重なっていくイメージでしょうか。

くどう:そうですね。やっていることは変わらないけれど、その一つひとつがどんどん上に積み重なっていく感覚はあります。続けるってそういうことなのかもしれないなと思いますね。

及川:ちなみに、うちはスキャナーの上に書類が塔みたいに積み重なっていて。それを崩さないように、そっと蓋を開けてスキャンするんです。本当はどければいいんですけど、なぜかどけないんですよね。これも一種の塔ですね(笑)。

なぜまにちゃんは表紙で怒っている?

『なんでもやりたい まにちゃん』(Gakken)より

─「まにちゃん」という名前の由来は何でしょう?

くどう特定の「誰か」と結びつくのではなく、どの子にとっても自分のものになるような名前にしたいという思いがありました。私自身、「れいん」という少し珍しい名前で育ってきて、同じ名前の主人公に出会うことがほとんどなかったんです。よくある名前の子が主人公だと、そこに入りきれないような疎外感を覚えることもあって、それが少し寂しかったんです。

名前は、2音くらいのシンプルな響きにしたいと思っていました。マ行やナ行の少しもったりした音も好きで。あえて性別を限定せず、「まにちゃんという生き物」のような存在にしたいと思って、この名前にしました。

及川:「まに」って、「many」のローマ字読みからとったのかと思っていました。

くどう:そこからとったわけではないのですが、しっくりきますね。そういうことにしようかな(笑)。

─デザインについては、いかがでしょうか。

及川:男の子か女の子かわからない感じにしたくて。コロッとした子が可愛いと思い、このデザインになりました。転がるような感じを意識しています。実は1回直していて、最初のラフの段階では、編集の方いわく「万能感がある子に見える」とのことでした。

くどう:表紙の裏にある、このほっぺが出ているまにちゃんに近かったですよね。

─ところで、表紙でまにちゃんが怒った顔をしていますが、なぜしかめっ面なのでしょうか。

及川:絵本の中に、まにちゃんの後ろ姿だけが描かれているシーンがあるのですが、表紙はそのときのまにちゃんの顔なんです。

─なるほど、気がつきませんでした! 

くどう:
まにちゃんが一番怒ってるシーンで及川さんがあえて後ろ姿を描かれたので、ああそうかと思って。読者もまにちゃんと同じ目線になるんですよね。

及川:谷内六郎さんの絵も後ろ姿が多いと思うんですけど、後ろ姿って、主役が見てる景色が描けるんですよね。後ろ姿だからこそ、その人の心情も伝わってくると思うんです。こっち向いてたら、記念撮影みたいなやらせ感が出てしまいますよね。

─ほかにも、出来上がった絵を見て、くどうさんが印象的だったシーンはありますか?

くどう:もう本当に、たくさんあるんですが、まず好きなのが、絵本を開いてすぐの月曜日の見開きですね。

いきなりまにちゃんが大きくバーンと出てくるのではなく、街の中にたくさんの人がいて、その中でまにちゃんがリサイタルを開いている。この賑やかな感じがすごくいいなと思っていて。

私、見開きに要素がたくさん詰まっていて、いろんなところに目を向けられる絵本が好きなんです。月曜日からこんな楽しんでいいんだろうか! とわくわくしました。

後半で少しシリアスな展開に入っていく中で、街の人たちはカラフルなままなのに、まにちゃんの周りだけ灯りが落ち着いていく、そのコントラストも印象的でしたね。

中でも衝撃を受けたのは、街の人たちが白い影のようになって、まにちゃんを取り囲むシーンです。読者自身が“囲む側”に入っていくような感覚があって。

その中で、足の間から、たぎる感情をこらえているようなまにちゃんが見えるのが、本当にかっこよくて。絵本でここまで、可愛さと緊張感が両立できるんだと、痺れました。

最初に惹かれたものと、最終的にたどり着く姿は違う

『なんでもやりたい まにちゃん』(Gakken)より

─まにちゃんは、一週間を通して日替わりでさまざまな仕事に挑戦しますが、その仕事を選ぶ動機が少しズレているというか、「キリンが羨ましいから消防士になる」など、すこし不純なところが面白かったです。

くどう:私、子どものころに、傘を持ったままジャンプすることに夢中だった時期があるんです。ダーッと走って、上でパッと傘を開くと、ほんの少しだけ落ちる速度が遅くなる。その滞空時間をどうにか伸ばせないかって考えていて。

でもあれって、「空を飛びたかった」とか「メリーポピンズに憧れた」とかではなくて、実は気球に乗ってみたかったんですよ。だから、憧れのかたちって結構ねじれているというか、まっすぐじゃないのかもしれないなと思っていて。最初に惹かれたものと、最終的にたどり着く姿って、意外とそのまま一致しないんじゃないかというか。私自身も、作家に憧れてそのまま作家になったわけではないですし、「その姿になること」と「最初の憧れ」って、そんなにぴったり重なるものでもないのかなと感じています。

絵本でも、その憧れと手段をいかにずらせるか、というのがすごく楽しかったですね。

及川:アマガエルになりたいから水泳選手になるとか。このズレが魅力ですね。

くどう:俳句でも、季語とそのイメージがあまりにぴったり重なりすぎると、あまり粋ではないんですよね。いかにその「ずれ」に説得力が出るかを楽しむというか。そういうずれに面白さがあるというか。

だから、まにちゃんは、月と話したいからといって宇宙飛行士になるのではなく、絵描きになるんです。
 
及川:距離が美しいですよね。絵と文章の関係にも通じる気がします。文章の内容をそのままなぞるように絵を描くと、やっぱり少し野暮になってしまうというか、ほんの少しズレているくらいのほうがかっこいい。

たとえば、ミミズのことが書いてあるのに、あえてミミズを描かない、みたいな粋なやり方もありますよね。そういう意味での距離の取り方というか、そのズレをどうつくるかが、表現としての面白さなんだと思います。

「子ども向け」「大人向け」と決めつけずに読んでほしい

─これから絵本を手に取る方々に、何かメッセージがあればお願いします。

くどう:私自身は、本って「子ども向け」「大人向け」と分けるものではないと思っていて。子ども向けだと決めつけずに大人にも読んでほしいですし、子ども自身にも「これは子ども向けの本だ」と構えずに手に取ってほしいなと思っています。

及川:僕も絵本を作るときに、「子ども向けだぞ」と最初から構えてスタートするのは、あまり良くないと思うんです。途中で子どもに届くように調整していくのはいいんですけど、出発点から「子どものためのもの」を目指してしまうのは、あまりかっこよくないですよね。

くどう:「まにちゃん」は、そういうかっこよさが叶った一冊だと思っています。みんな自分がまにちゃんであることを思い出してほしいというか。「休まず、たゆまず、まにちゃんであろうよ」という想いがありますね。

ぜんぶやりたい まにちゃん

くどうれいん(作) 及川賢治(絵)『ぜんぶやりたい まにちゃん』(Gakken)

まにちゃんは、毎日ちがうお仕事をしています。月曜日、歌手、火曜日、消防士…として毎日楽しく暮らしていました。でも、どれも全部やりたいことなのに、みんなに「どれがいちばんだいじなの?」と聞かれて困ってしまいます。そんなある日、まにちゃんは風邪をひいてしまい…