「まともに生きなさい」の「まとも」って何? 怒られても続けた“夢中なこと”が、今の仕事につながるまで【くどうれいん&100%ORANGE・及川賢治】

くどうれいん、及川賢治(100%ORANGE)
2026.05.07 13:41 2026.05.18 11:50

くどうれいんさん、及川賢治さん(100%ORANGE)

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絵本『なんでもやりたい まにちゃん』(Gakken)を手がけた作家・くどうれいんさんと、イラストレーターの及川賢治さん(100%ORANGE)は、子ども時代、授業を聞かずにこっそり短歌を書く、教科書の余白にパラパラ漫画を描くなど、「夢中なこと」を止められなかったといいます。

当時は大人に怒られたその時間が、いまの仕事につながっている。そんなお二人の原点をたどります。

(取材・文:nobico編集部)

子ども時代の原体験は「切り絵」と「粘土」

『なんでもやりたい まにちゃん』(Gakken)より
『なんでもやりたい まにちゃん』(Gakken)より

─お二人の子ども時代について伺いたいのですが、どんなお子さんでしたか?

くどうれいんさん(以下くどう):私は高校に入ってから明るくなったのですが、それまでは内向的でした。引っ越しが多くて、友達関係もなかなか続かないまま次の場所に行くことが多くて。

それもあって、ひとりでずっと工作をしているような子どもでしたね。園長先生がよく気にかけてくれて、切り絵や工作で遊んでくれたのを覚えています。

及川賢治さん(以下 及川):園長先生っていうところがリアリティありますね。

くどう:こういうシーンで気にかけてくれるのって、意外と園長先生ですよね。女性の園長先生だったんですけど、こっそりと園長室に入れてもらって、切り絵を教えてもらっていました。

そこで作ったものを、透明なデスクマットに大事に入れてくれていて。それがすごくうれしくて、「作ってあげている」という気持ちで切り絵を作っていました。

今思うと、ちょっと切ないですよね。園長先生は役割を与えてくれていたんだと思うんですけど、当時の私は「リクエストされたから仕方なくやっている」みたいな感覚がどこかにあって(笑)。なので、私の幼少期の原風景は切り絵ですね。

及川:僕は、小さいころは絵よりも粘土が好きで。油粘土で何でも作っていましたね。ひたすら粘土を細くしたり、ロボットみたいなものを作ったりしていました。夕飯の時間まで毎日やっていたので、親に臭いって文句を言わました(笑)。粘土に夢中になったことが、絵の上達にもつながった気がします。

くどう:油粘土だと、作品を取っておけないですね。

及川:そうなんです。だから最後はぐしゃっとつぶして、毎回作り直していました。こたつを火山に見立てて、粘土で作ったものをこたつの中に持ち込んで戦わせたり、そういうことばかりしていましたね。どちらかというと、おとなしいタイプだったかな。

外で遊ぶのも好きでしたけどね。普通に走り回ったりもしていたと思います。

くどう:私も、引っ越しのたびにいったんゼロにはなるけれど、友達がずっといなかったわけではないと思うんです。

ただ、なぜか一番よく覚えているのは園長先生のことなんです。あとは、おやつの時間。小さな鯛焼きが出ることがあって、それを心待ちにしていた記憶がすごく強くて。だから、振り返ると残っているのは、園長先生とおやつの記憶ですね。

子どものころの夢はどうなった?

『なんでもやりたい まにちゃん』(Gakken)より
『なんでもやりたい まにちゃん』(Gakken)より

ーお二人の子どもの頃の夢はなんでしょうか?

くどう:私はまわりが「看護師になりたい」と言っていたら、「じゃあ私もそれで」と合わせる子どもでした。なので、明確に「この職業になりたい」と思っていたタイプの子どもではなかったと思います。

その後、作家という職業を知り、母がどうやらそれに憧れているらしい、ということにも気づきました。それもあって、小学校低学年の「将来の夢」を書く授業で、「作家になりたい」と書いたことがあります。

ただ、そのとき先生が「サッカー」と読み間違えてしまい、「れいんちゃんはサッカーになりたいそうですね」と母に伝えたため、母が「作家です!」と訂正したそうです。このエピソードは何度も聞かされてきました(笑)。

及川:僕は子どものころ、あまり職業の種類を知らなかったんですよね。でも絵を描くのが好きだったので、文集に「漫画家になりたい」と書いたことがあります。キャプテンハーロックみたいな漫画を描くつもりだったんですけど、結果的には違う方向のジャンルになりましたね。

ー今の職業につながるきっかけとなる出来事は何でしょうか。

くどう:高校で入った文芸部で、スポコンのようにひらすら文章を書いたことです。誰にも負けたくない、上手くなりたいという気持ちで何よりも熱中していましたね。俳句、短歌、詩、小説、随筆、戯曲、児童文学と、7つのジャンルをすべてやる方針の部活で、すべてに真剣に取り組んでいました。今もいろいろなジャンルで作家活動をしていますが、そもそも7ジャンルからスタートしているので、これでも今では減ったんですよ。高校時代から「まにちゃん状態」ではあったかなと思います。

及川:僕は漫画が好きで、自分でも描いて投稿したりしていたんです。それで、こういうことを仕事にするのも面白そうだなと思うようになって、美術大学に進みました。最初はデザイナーになるつもりで入ったんですけど、やっていくうちにやっぱり絵そのものが面白くて、自然とそちらの方向に進んでいきました。

デザインに惹かれたきっかけは、7歳上の兄の存在が大きいですね。兄がデザインの仕事をしていて、小さい頃からデザインの本を読んでいる姿を見て「かっこいいな」と思っていたんです。美大を目指したのも兄の影響が大きくて、ずっと真似してきたところはあります。

ー今のご職業は、子どもの頃の自分から見ると意外に感じますか?

くどう:意外に感じると思いますね。「なんで?」って思うんじゃないかな。

及川:僕は漫画の仕事をしているので、まあまあだと思います。

子どもが夢中なことは、そのまま夢中でいさせてあげて

『なんでもやりたい まにちゃん』(Gakken)より
『なんでもやりたい まにちゃん』(Gakken)より

ー最後に、一般的な進路とは違う道に進みたいと思っている子どもや、その親に向けて、メッセージをいただけますか?

くどう:私はひとと違う道を進みたがっていたタイプではなかったので、どちらかというと子ども本人というより、大人に伝えたいことのほうが多いです。

人と違ったことをする子に対して、大人はつい「まともに生きなさい」と言いがちなのですが、私はそもそも「誰しもまともじゃないのにね」って思うんです。会社員だからまともで、自営業はそうではない、という価値観もありますが、実際に自分が大人になってみると、そんなに簡単なものではないよなって。各々どちらも偉いと思うんです。

だからこそ、親御さんには、子どもが夢中になっていることを、そのまま夢中でいさせてあげてほしいなと思います。何かに夢中でい続けることって、実はすごく大変なことなので。そこを途切れさせずにいられる環境があることは、とても大事なんじゃないかなと感じます。

及川:僕は子どもの頃、教科書の余白にずっとパラパラ漫画を描いていたんです。向こうから人が走ってきて、ジャンプしたりするような。でもそれが先生に見つかって、全部消しなさいと怒られてしまって。

1ページずつ、消しゴムでなんとか消したんですけど、あのときは本当に悔しかったですね。「こんなに面白いのに、消さなきゃいけないんだ」と思って。

ただ今は、アニメーションの仕事もするようになって、少しだけ「ほら見たことか」という気持ちもあって(笑)。当時は、面白くてやっていたことなのに怒られるのかと、すごく悔しかったんですけど、結果的にはそれが仕事にもつながっているなと思います。

くどう:私も授業中に話を聞かず、教科書を少しずらして、その下に短歌用のノートを置いてこっそり書いたりしていました。文芸のコンクールで成績が上がるにつれて、学力はどんどん落ちていってしまって。父に「そんなことをしているから勉強ができないんだ」と言われたことがあります。

ーお二人の才能が、大人たちの圧力で潰されずに開花してよかったです。

及川:本当に好きだと、その程度じゃ全然くじけないんですよ。

くどう:大人に何か言われても、結局やっちゃうんですよね。

くどうれいん

くどうれいん

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作家。1994年生まれ。岩手県盛岡市出身・在住。著書に、小説『氷柱の声』、小説作品集『スノードームの捨てかた』エッセイ集『うたうおばけ』『湯気を食べる』、歌集『水中で口笛』、絵本『まきさんのソフトクリーム』、『スウスウとチャッポン』などがある。

及川賢治

及川賢治

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1996年ころから100%ORANGEとして活動を開始。イラスト、絵本、漫画など幅広く活躍中。『よしおくんがぎゅうにゅうをこぼしてしまったおはなし』(岩崎書店)で第13回日本絵本賞大賞受賞。絵本の作品に『スプーンさん』『コップちゃん』(文・中川ひろたか、ブロンズ新社)、『ぶぅさんのブー』(福音館書店)、『グリンピースのいえ』(教育画劇)、『ねこのセーター』、『まる さんかく ぞう』(文溪堂)などがある。

ぜんぶやりたい まにちゃん

くどうれいん(作) 及川賢治(絵)『ぜんぶやりたい まにちゃん』(Gakken)

まにちゃんは、毎日ちがうお仕事をしています。月曜日、歌手、火曜日、消防士…として毎日楽しく暮らしていました。でも、どれも全部やりたいことなのに、みんなに「どれがいちばんだいじなの?」と聞かれて困ってしまいます。そんなある日、まにちゃんは風邪をひいてしまい…