AI時代になぜ「そろばん」?中受率が高い地域で年長〜小1から始める家庭が多い理由
タブレット学習が普及し、学校でも生成AIを活用した学習が取り入れられるようになった今の時代に、あえてアナログな「そろばん」を子どもに習わせるメリットは何でしょうか。
暗算力が鍛えられるそろばんは、実は中学受験に向けて始める家庭が多く、受験率の高い地域では人気の習い事なのだそう。
そろばんで育つ子どもの力について、(公社)全国珠算教育連盟の理事長、そして現役の先生でもある、鈴木宗一先生にお話をうかがいました。
(取材・文:nobico編集部)
手を動かすことで、感覚として学びが定着する
─今、子どもたちはどのような目的でそろばんを始めることが多いのでしょうか。
集中力が養えるといったメリットもありますが、やはり一番は計算力がつくことですね。そろばんを続けていくと、実際に道具を使わなくても、頭の中のイメージでそろばんをはじけるようになるんです。
なので、学校で習う筆算と違い、桁数の多い計算でも、圧倒的なスピードで解けるようになります。
─タブレット学習なども普及する中で、あえてアナログなそろばんを習う良さはどこにありますか?
今は学校でもタブレットが全面的に導入されていますが、そろばんは学びの質が違うように思います。子どもたちの体に染み込むといいますか、実際に指を使って動かすことで、感覚として学びが定着するんです。
スポーツは、実際に自分の体を動かさないと、感覚がなかなかつかめないですよね。そろばんは、それによく似ているんです。
小さい頃にしっかり練習すると、「83×76は?」と聞かれても、ぱっと答えが出るくらいの計算力が身につく。その力が一生残るんです。
─AIなども普及し、社会全体でデジタル化が進む中で、子どもたちの学びにはどのような変化が起きていると感じますか。
子どもだけでなく大人もそうですが、数に触れる機会はものすごく減っていますよね。複雑な計算は機械がやってくれますし、電話番号も、今は家族の番号すら覚えていないという人も多いと思います。
つまり、日常の中で数字との関わり方が、この10年で大きく変わってきているんです。便利にはなった一方で、学びの質という意味では、少し落ちてきている部分もあると思うんです。これは社会全体の課題だと思いますね。
そろばんは小さな成功体験を積み重ねやすい
─そろばんに向いているのはどんな子でしょう?
基本的にはスポーツと一緒ですから、コツコツ努力を続けられる子はやはり強いですね。
もともと計算が苦手な子も、コツコツ続ければ力をつけることができます。
─せっかくそろばんを始めても、子どものやる気が続くか不安に感じる方もいると思いますが、そろばん学習ではどのようにモチベーションを高めていくのでしょうか。
そろばんの世界には検定試験があって、かなり細かいスモールステップで制度化されているんです。ですので、比較的やさしい段階から成功体験を積み重ねていける仕組みになっています。
加えてそろばんには競技大会もあります。全国各地で、地域レベルや県レベル、最終的には全国レベルまで、大会がかなり頻繁に行われています。
熱心な先生のもとで学べば、そういった機会に触れることも多く、モチベーションにつながりやすいと思いますね。
何歳から始めるのがベスト?
─そろばんは何歳から始めるのがベストでしょうか。
早ければいいというものでもありませんし、子どもによって個人差もあるので一概には言えません。ただ、実際には年長さんから小学1年生にかけて始める子が多いです。
というのも、そろばんは中学受験を見据えて始めるご家庭も多くて、4年生くらいから本格的に受験モードに入ってしまうんですね。そうなると、十分な練習時間を確保するのが難しくなってくるので、それまでにしっかりトレーニングを積んでおきたい、という保護者の考えがあると思います。
実際、関東圏や関西圏など中学受験率が高い地域では、かなり多くのご家庭が、幼児期や小学1年生くらいからそろばんを始めていますね。
─習い始めてから頭の中にそろばんのイメージが浮かぶようになるまでに、どれくらいの期間がかかるのでしょうか。
これは指導者の腕にもよるのですが、習い始めた初日からイメージできるように教える指導者もいます。もちろん最初はごく簡単なレベルで、「1+2+6-8+3…」といった計算を、頭の中のそろばんを使って行うような形ですね。
良い教室を選ぶためのチェックポイント
─やはり教室選びは重要になってきますか。
そうですね。良い教室かどうかは、ホームページなどで実績を見るのも一つの参考になります。また、中学生や高校生、あるいは社会人になっても続けている人が多い教室は、やはり良い教室だと思いますね。
実際、うちの教室でもそうですが、一度受験で離れても、終わったらまた戻ってくる子が多いんです。そうやって長く続ける生徒が多いというのは、一つの指標になると思います。
─受験が終わった後も続ける子がいるんですね。
そろばんの練習って、ものすごく集中力が必要なんですよね。その集中している状態を体が覚えていて、「もう一度あの状態になりたい」と感じる子も多いんだと思います。
一方で、受験の前日まで教室に来ていて、合格とともにスパッとやめた子もいます。こちらとしては「こんな時に教室に来ていて大丈夫?」という感じだったのですが、本人は「そろばんやってた方が頭のコンディションがいいから」って。そんな面白い生徒もいましたね。
失敗体験を乗り越えて心が成長する
─そろばん学習を続けていく中で見られる、子どもの成長のサインにはどのようなものがありますか。
そろばんを学ぶ上で、すべてが順調にいくことはまずないんです。レベルが上がれば上がるほど、失敗体験というか、いろいろな壁にぶつかります。だからこそ、それを乗り越えたときの精神面での成長、心の成長というのは、とても大きいものがあります。
私たちも日々子どもたちと接している中で、ある時期に「あ、この子はもう何をやらせても大丈夫だな」と感じる瞬間があるんです。そういうときは、そろばんだけでなく、将来社会に出てもきっといい仕事をするだろうな、と思えるんですよね。
そういった成長を、できるだけ多くの子どもたちに経験してほしいと思っています。
─最後に、何かメッセージがあればお願いします。
そろばん教育というのは、子どもたちの自力をつける学びだと思っています。表面的なものではなく、しっかりと質を高めていくような学習です。
いいタイミングで、しっかりとした教室で学ぶことができれば、子どもの成長にはかなり大きく寄与できるのではないかなと思います。