習い事の数は親の不安に比例する? 子どもを追い詰める「焦り」の正体
「周りの子はみんな塾に通っている」「せっかく始めた習い事をやめないでほしい」――子どものためを思うからこそ、習い事や学習について悩む保護者は少なくありません。
しかし、そんな親の焦りや不安が強くなりすぎると、親子関係がぎくしゃくしたり、子どもを追い詰めてしまったりすることも。場合によっては、教育虐待につながってしまうケースもあるといいます。
教育機関を中心に、これまで1万人以上の相談支援に携わってきた臨床心理士・公認心理師の南舞先生に、親子で行き詰まらないための「塾や習い事との付き合い方」についてお話しいただきました。
親の「不安や焦り」の正体は?
―「より良い教育を受けさせたい」という親御さんの気持ちは、時に焦りや不安につながることがあると思います。「塾や習い事に通わせないと将来困るのでは」という不安や焦りと、保護者はどのように向き合っていけばよいのでしょうか。
南舞先生(以下、南): 受験や習い事に関する親御さんの不安は、大きく2つに分かれていると思っています。
1つは「子どもの将来に対する純粋な心配」。もう1つは、周囲と比べたときの焦りや、「自分は親としてちゃんと機能しているか」という、「親自身の自己評価への不安」です。
後者の「自己評価への不安」が強いと、どんなに子どもに習い事をやらせても、不安が解消することはありません。 だからこそ、まずは焦りや不安の正体を知ることが大切になります。
もし「自分自身の自己評価への不安」の割合いが多かったとしても、それを無理になくそうとする必要はありません。「あ、今私は不安なんだな」と気づくだけで、子どもに対して感情的になるのを防ぐブレーキになります。
子どもの「やりたい」と、習い事の「やめ時」を見極める
―子どもが自分から「やりたい」と言ったとしても、それが純粋な興味や好奇心からなのか、それとも親を喜ばせたい気持ちからなのか、判断に迷うことがあります。そうした違いを見極めるポイントはあるのでしょうか。
南: これは非常に難しい問題ですね。気持ちって綺麗に分断できるものではないので、「本人の中でやりたい気持ちもあるけれど、同時に親に喜んでほしい気持ちもある」と、両方が混在しているパターンも多いのではないでしょうか。
ただ、子どもをよく観察していくなかで、本人の「純粋な好奇心が高そうなときのサイン」を推察することはできます。
たとえば、
・習い事に関する話を、子ども自身から積極的に楽しそうに話す
・親が見学に来ていても目を気にせず、その場(レッスンや課題)に没頭している
・本人から「もっとやりたい」「頑張りたい」という言葉が自然に出る
などです。
―自分から「やりたい」と言って始めたのに途中で嫌になってしまったり、反対に親に勧められて始めたものが思いのほか楽しくなったりすることもありますよね。続けるかやめるかを判断する際、どんな点を目安にするとよいのでしょうか。
南: 子どもはある程度続けてみないと「楽しい」という気持ちに切り替わらないパターンもあります。なので、始める段階で「まずは3ヶ月」とお試し期間を決めておくのがおすすめです。
3ヶ月は環境に慣れてくる頃なので、そこで馴染めれば続ければいいし、馴染めなければ「合わなかったね」と結論をだせば、お互いストレスを溜めずに次へ進めると思います。
親の圧が強くなると、子どもは「やめたい」すら言えなくなってしまいます。「今日、楽しくないポイントはあった?」といった質問で逃げ道を作ってあげること。そして親側も「日常生活に支障が出たら一度やめよう」など、あらかじめ引き際の基準を心の中に持っておくと、親子で行き詰まるのを防ぐことができます。
傷ついた親子関係を修復していくステップ
―親の期待や焦りが強くなりすぎたり、「やめたい」と言い出せない雰囲気ができてしまうなど、結果的に子どもを追い詰めてしまうケースも多いそうですね。
南:子どもが自ら学びたいと感じ、塾や習い事を楽しめているのであれば、それは健全な教育的関わりと言えます。
一方で、拒否できない状況のなかで学習を強いられたり、「成績や結果によって親からの評価や愛情が変わる」と感じたりしている場合は注意が必要です。親の期待がプレッシャーとなり、教育虐待に近い状態へと発展している可能性があります。
―親としては良かれと思っていたことが、知らず知らずのうちに子どもを追い詰めてしまうこともあるのですね。もし「教育虐待」と言えるような状態になってしまった場合、そこから関係を修復していくことは可能なのでしょうか。
南: 修復していった事例はたくさんあります。スクールカウンセラーやカウンセリングなどの専門機関が介入して関係を取り戻していく際には、いくつかのステップがあります。
最初のステップは、近くなりすぎてしまった親子の距離を物理的・心理的に離すことです。大前提として、すべての習い事や過度な家庭学習をストップし、「子どもが心から安心できる日常生活」を取り戻すことから始めます。
ただ、その期間、一番きついのは親御さんなんですよね。「今やめたら遅れてしまう」「将来がダメになる」という恐怖が襲ってきます。親御さんが自身の不安を処理できないと、また子どもに強く当たってしまい、逆効果になってしまうので、カウンセラーは、まず親御さんの不安を徹底的に受け止めることから始めます。
―親御さんの不安のケアが大切なんですね。
南: はい。親子の関係性がこじれると、子どもが学校に行けなくなったり、家で暴言・暴力を振るったり、嘘をつくようになる(不適応行動)ことがあります。これは子どもが限界を迎えているサインです。
子どもが発する家庭内での変化を「反抗期」と片付けず、親子関係の黄色信号として捉えることが大切です。
―親子だけで抱え込まずに、周りを頼ることが大切だと感じました。
南:そうですね。近年は核家族化が進み、親御さんが孤立しやすい環境にあります。そのため、親子だけの世界で物事が完結し、気づかないうちにその家庭独自の厳しい「当たり前」ができあがってしまうことも少なくありません。
だからこそ、親子関係がこじれてしまったときは、自分たちだけで解決しようとせず、「第三者の視点」を取り入れてほしいと思います。
親御さんから「子育てがうまくいかない」と第三者へ相談できるケースは、改善する方向へ進みやすいです。
意外と知られていませんが、学校のスクールカウンセラーは、子どもだけでなく保護者からの相談も多く受けています。外部の人に話すだけでも気持ちの整理や発散につながりますし、そこから新たな気づきや、子どもとの関わり方のヒントが見えてくることもたくさんあります。
孤立しがちな都心の子育て。「第三者の視点」を当たり前の選択肢に
―今まさに試行錯誤しながら子育てに向き合っている保護者の方へ、最後にメッセージをお願いします。
南: 情報や選択肢が溢れる今の時代に、日々子育てをしていること自体、本当にすごいことです。周りと比べて不安になるのも自然なことだと思いますし、受験や教育に熱心になることを否定するつもりは全くありません。
ただ、情報に流されそうになったとき、一歩立ち止まって「本当に我が家に必要かな」と考える余白を持ってほしいなと思います。
もしどうしたらいいか悩んだときは、スクールカウンセラーや地域の窓口など、たくさんの相談機会を活用してください。自分たちだけで抱え込まないことが、回り回って、子どもたちにとって一番良い影響になっていくはずです。