ランドセルの底に丸まったプリント…宿題を隠す小4息子に母親が「叱る言葉」を飲み込んで伝えたこと

熱海康太
2026.07.21 15:20 2026.07.22 07:00

片付けされず散らかった小学生の部屋

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元公立学校教員として多くの子どもたちと向き合い、現在は一般社団法人日本未来教育研究機構代表理事を務める熱海康太氏は、「宿題を隠すという行動は、親との関係を守ろうとする、子どもなりの不器用な工夫でもある」と語ります。ランドセルの底に丸まって押し込まれたプリントを見つけた母親が、叱る言葉を飲み込んで選んだ一言から、親子の向き合い方が変わり始めました。(写真はすべてイメージです)

ランドセルの底から出てきたプリント

日曜の夜9時、小学4年生のリク(仮名)の部屋から母親の由美さん(仮名)が見つけたのは、ランドセルの底に丸まって押し込まれた3枚のプリントでした。日付を見ると、先週配られたはずの計算プリントです。

「なんで隠すの」と聞くと、リクは黙ってうつむきました。責める口調ではなかったつもりでしたが、由美さんの声には、隠れた苛立ちがにじんでいたかもしれません。

先延ばしという行動そのものを見ると、多くの親は「怠け」や「意志の弱さ」を連想します。しかし発達心理学の観点では、先延ばしは単純な性格の問題ではなく、その課題に対して子どもが感じている「不快感からの回避行動」として理解されることが多くなっています。

宿題そのものが嫌なのではなく、宿題に取り組んだときに感じる「わからないかもしれない」「うまくできないかもしれない」という予期不安から逃れるために、先延ばしという行動が選ばれているのです。これは意志の弱さというより、脳が不快な感情を避けようとする、ごく自然な仕組みの表れだと言えます。

実際、リクが後になって由美さんに話したところによると、計算の中に、以前間違えて先生に指摘された単元の問題が含まれていました。「あれ見たら、なんかやる気なくなった」というリクの言葉には、単なる面倒くささではなく、失敗の記憶と結びついた回避が働いていたことがうかがえます。

隠すという行動が意味するもの

宿題を隠すという行動は、一見すると誠実さに欠ける行動に見えます。しかしこの行動の裏側には、「終わっていないことを知られたら、がっかりされる」「叱られる」という予測が働いています。つまり隠すという行動は、親との関係を守ろうとする、子どもなりの不器用な工夫でもあるのです。

この視点を持てるかどうかで、親の対応は大きく変わります。頭ごなしに「なんで嘘をつくの」と迫るのではなく、「隠したくなるくらい、気が重かったんだね」とまず受け止めることが、次に子どもが正直に「まだ終わってない」と言える関係につながっていきます。

隠すことが繰り返されるうちに、子どもの中では「バレなければ大丈夫」という感覚が強化されていくこともあります。この段階まで進んでしまうと、単に見つけて叱るだけでは根本的な解決にはなりません。むしろ「見つかったこと」よりも「正直に言えたこと」を評価する経験を積み重ねることのほうが、長期的には効果的です。

さらに注意したいのは、隠す行動が見つかったときの親の第一声です。由美さんは最初、「またこんなことして」という言葉が口から出そうになったと言います。しかしその一言をぐっと飲み込み、「見つけてよかった、これで一緒に片づけられるね」という言葉に変えました。

先延ばしにも、意味がある

ランドセルと小学生の男の子

先延ばしという行動は、必ずしも悪いことばかりではありません。締め切り間際になってようやく集中力が高まり、短時間で一気に片づけるという経験を持つ子どもは少なくありません。これは「締め切り効果」と呼ばれる現象で、適度なプレッシャーが集中力を引き出すこと自体は、大人にも共通して見られる仕組みです。

問題になるのは、先延ばしそのものではなく、それが「溜めて、隠して、また溜める」という悪循環に入り込み、子ども自身が身動きを取れなくなっている状態です。悪循環に入ってしまうと、子どもは「どうせ終わらない」という無力感を抱えるようになり、さらに着手が遅れるという負のスパイラルに陥っていきます。この段階では、叱咤よりも、まず量そのものを一緒に整理し直す作業が必要になります。

悪循環を断ち切るための小さな工夫

由美さんが試したのは、リクと一緒に「終わっていない宿題を全部机の上に出す日」を週に一度作ることでした。ルールは一つ、出したことを叱らないこと。リクは最初、恐る恐るプリントを並べました。由美さんは「思ったより少ないね」とだけ言いました。実際、隠していたプリントの量は、リク自身が思っていたよりも少なかったのです。

先延ばしをゼロにすることを目指すよりも、先延ばしをした後に、隠さずに軌道修正できる力を育てることのほうが、実は子どもの将来にとってはるかに役立つ力になります。社会に出れば、締め切りに追われる場面や、思うように進まない仕事に直面する場面は誰にでも訪れます。

そのときに大切なのは、先延ばしをしないことよりも、遅れに気づいたときに隠さず助けを求められることです。子ども時代の宿題という小さな舞台は、その力を練習する、かけがえのない機会でもあるのです。

熱海康太

熱海康太

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大学卒業後、神奈川県の公立学校で教鞭を取る。 教育実践において厚木市教育委員会から表彰を受けるなど活躍。しかし、勘と根性に任せた指導法に限界を感じ、国立大学付属小学校で多くの教育論や教育実践を学ぶ。 学びを体系化することで、学級や学校は安定し、『先生の先生』を行うことも増えた。その後、教員や保護者、子どもたちのための本を執筆するようになる。 常に先端の教育理論や教育実践を研究している。