「ただの紙なのになぜ物が買えるの?」 『ごんぎつね』で子どもに伝えるお金の価値の正体

子どもからの純粋な質問として「お金はどこから生まれるの?」と聞かれたときに、正しく答えられる自信がない親も多いのではないでしょうか。「銀行が作っている」と答えても、「ただの紙なのになんで物が買えるの?」と追加質問が来るかもしれません。
そんな親子の悩みに一つのヒントを与えてくれるのが、みずほフィナンシャルグループと空想科学研究所による『昔話でおカネの基本がわかる!空想金融教室』です。なかでも『ごんぎつね』を題材にした章では、ごんと兵十の信頼関係の欠如から「信用」の重要性を説き、お金の価値や銀行の信用創造まで解説しています。
「1万円札がなぜ1万円の価値を持つのか」「銀行はどうやってお金を生み出すのか」といった根本的な疑問を、悲しい物語を通じて自然に理解できる構成。複雑な金融システムの土台となる「信用」という概念を、親子で話し合いながら学べる貴重な教材になっています。
家庭での金融教育の出発点として、お金の正体を知ることから始めたい親にとって、具体的な会話のきっかけを提供してくれるでしょう。今回は、この教育手法の実例をご紹介します。
※本記事は、『昔話でおカネの基本がわかる!空想金融教室』(小学館)より一部を抜粋、編集したものです。
ごんには「大切なもの」が決定的に欠けていた!

キツネで、村へ降りてはイタズラばかりしていた。畑を荒らし、農家の庭をメチャメチャにし、ある日など、兵十が川で捕まえていたウナギを、すべて逃がしてしまった。
その数日後、ごんは兵十の母親が亡くなったことを知った。
「あのウナギは、兵十が病気の母親のために捕っていたに違いない」と思ったごんは、ひとりぼっちになった兵十のために、いわし売りからいわしを盗み、兵十の家へ投げ入れる。
ところが兵十は、いわし売りに泥棒と思われ、殴られてしまった。
ごんは次の日から、山で拾った栗やまつたけを、兵十の家へこっそり届けることにした。
知らないうちに栗やまつたけが届くのを不思識に思った兵十が、友達の加助に相談すると、加助は「神さまが哀れんで、恵んでくださるんだよ」と言う。兵十は「そうかなあ」と思いながらも、神さまに感謝することにした。
それを知ったごんは「おれにはお礼を言わないで、神さまにお礼を言うんじゃア、おれは、引き合わないなぁ」と思うが、それでも食べ物を兵十の家へ届け続ける。
だがある日、家に入ったところを、兵十に見つかり、銃で撃たれてしまう。兵十は、ごんがまたイタズラにきたと思ったのだ。土間の栗に気づいたのは、その後だった。
「ごん、お前だったのか。いつも栗をくれたのは」
倒れたごんは、目をつぶったまま頷いた。
兵十が手から落とした火縄銃の筒口から、青い煙が細く出ていました。
柳田さん:うううっ、悲しい。悲劇すぎる。こんなツライ話、なんで学校の教材にすんの!?もちろんそれに理由はあって、『ごんぎつね』には、考える要素がたくさんあるからだ。人を理解することの大切さと難しさ、つぐなう気持ちの尊さ、自分を知ってほしいという思い。お話を読んで、自分で考えるのが大事なんですね。
……というのはわかる。あまりに悲しいけど、まあ、わかる。わからないのは、みずほさんの言う「金融にとっていちばん大切なことが書かれている」だ。筆者としては、みずほさんには、ごんと兵十を幸せにする方法を考えてほしいんだけどな。
1万円札が「1万円」なのはなぜ?

みずほさん:ああ、金融に携わる人たちには、年に一度はこの話を読んでほしいですねぇ……。
柳田さん:え?どういうこと?銀行の人が『ごんぎつね』を読むべきって……なんで?
みずほさん:このお話からは、金融にとっていちばん大切な「信用」が学べます。悲劇になったのは、兵十のなかに「ごんに対する信用」がなかったからです。
柳田さん:そうなのかな。まあ、確かにごんは、イタズラをする困ったヤツと思われてたでしょうが、それと銀行の人にどんな関係が……。
みずほさん:柳田先生は、1万円札になぜ1万円の価値があると思われますか?1万札の製造コストは、1枚あたり約20円です。モノとしてはそれだけの価値しかないのに、1万円札は1万円の価値を持っています。不思議ですよね。
柳田さん:ん〜、「1万円」って書いてあるから1万円だと思ってた。
みずほさん:貨幣の価値は、モノとしての価値とは異なるからです。紙幣には金額の他に「日本銀行券」、硬貨には「日本国」と書かれています。発行元の日本銀行や政府が、日本円の価値を保証し、国内での税金は日本円で納めないといけません。国民や世界の人たちが日本円を信用して使っているので、価値を保つことができています。
柳田さん:あ、なるほど。信用があるから、20円ほどで作られた紙が1万円として使える、と。
みずほさん:もし、日本銀行や政府が信用を失ったら、1万円の価値はなくなります。
柳田さん:1万円札を出しても、20円のモノしか売ってもらえないとか?それは困るな!
銀行はおカネの量を増やしていた!
柳田さん:信用が大事なのはわかってきたけど、この話、ちゃんと『ごんぎつね』につながります?
みずほさん:はい。そのためにも、もう少し銀行の話をさせてください。私たちは預金という形でおカネを預かり、そのおカネを別の方に貸し出す「融資」という仕事をしています。この「融資」を繰り返すことで、「信用創造」が行われます。銀行は、お客さまから預かったおカネのうち、たとえばその10%(「預金準備率」という。金融機関の種類、預金量によって異なる)を、日本の中央銀行である日本銀行に預け、90%を別の方への「融資」に使うことができます。この仕組みが、世の中に流通するおカネの量を増やすことになります。
柳田さん:ん?ん?どういうこと?
みずほさん:たとえば、柳田先生がある銀行に、1000万の預金をしたとします。その銀行は、このうちの900万円を別の方に融資できます。すると、こういうおカネの流れが生まれます。
①銀行から900万円の融資を受けた人や企業は、そのおカネでモノを買ったり、給与を支払ったりする。
②そのおカネは、受け取った人や企業の銀行口座に入金されて、預金となる。
これらのおカネはたくさんの銀行に散らばりますが、その合計は900万円ですよね。銀行はその900万のうち、90%をまた新たな融資に使います。
柳田さん:えっ、900万円の90%は810万円で、さっきの900万円と合わせると1710万円。最初の1000万を超えちゃってるけど……。
みずほさん:まだ続きがあります。810万円が口座に入ったら、その90%の729万円を新たな融資に使えます。もちろん、その次も。そのまた次も。
柳田さん:きょぎょっ。この合計額は、数学の「等比数列」の公式で試算できまして、繰り返していけば最大で1億円になります。ワタクシの預けた1000万円が10倍に増える!なんじゃそりゃー!?
みずほさん:これが「信用創造」です。銀行は、最初の1000万円を除く9000万円を信用創造することになります。
柳田さん:い、いいんですか、そんなコトをして?
みずほさん:それが銀行の持つ重要な役割のひとつなのです。信用創造によって、社会に流れるおカネの量を増やし、経済活動を活発にします。
柳田さん:そういうことか……。確かに、流通するおカネが多いと、融資が受けやすくなり、社会は活性化しますね。それにしても、銀行は打ち出の小槌のように、お金を生み出せるんだ。ちょっとコワイな。
みずほさん:確かにそうです。だからこそ、銀行には信用が不可欠ですし、融資には厳格な審査を行います。
柳田さん:銀行が融資を通じておカネを生み出しているなら、おカネが返済されないと大変だもんね。
みずほさん:そのとおりです。銀行は信用を基盤に事業を行うため、さまざまな制度のもとで運営されています。先ほどお話しした預金準備率(準備預金制度)も、銀行が預金総額の一定割合以上を中央銀行への預け金として保有することで、金融不安や資金繰りの悪化などに備えて設けられている制度なんです。
柳田さん:なるほど。銀行の役割を支えるのが「信用」ということは、よーくわかりました。
信用創造のポイント!お金はどこから生まれるのか

私たちの財布の中のお礼は日本銀行によって発行され、国内を転々としてきました。お札の軌跡をたどることはできませんが、ひとつ確かなことがあります。それは、そのお札は「必ず一度は預金口座から引き出されている」ということです。
つまり、私たちがお札を手に入れるよりも前にその分の銀行預金が生まれているのです。銀行預金は銀行が融資を行うときに借入人(お金を借りた人や企業)の預金口座の残高に金額を書き加えることで生まれます。これを「信用創造」または「貨幣創造」といいます。
少し難しいお話ですが、実務的には、銀行は融資によって「預金通貨」というお金を新たに生み出しているのです。銀行の融資によって生み出された預金は、別の口座に送金されたり、ATMで現金の引き出しに使われたりします。返済時は融資のときとは逆に、借入人の口座から預金が減少することになります。
こうしてみると、銀行はまるで「打ち出の小槌」のようにお金を増やすことができるように見えます。しかし、いくらでも増やして良いというわけではなく、銀行は融資を行うときに借入人の返済能力を慎重に審査します。貸したお金が返済されないと銀行の損失となり、それが重なると経営不安を招いて預金の引き出しが殺到するなどの混乱を引き起こす可能性があるからです。
銀行融資により生み出される預金の量は景気と深い関係があり、融資が増えると経済活動が活発になり景気が良くなります。そのため、日本銀行は不景気のときには金利を下げてお金を借りやすくしますし、景気が過熱している時は金利を上げてお金を借りにくくしているのです。
『昔話でおカネの基本がわかる!空想金融教室』(小学館刊/柳田理科雄(著)・みずほフィナンシャルグループ(解説・監修)・株式会社博報堂・博報堂ケトル(協力))
金融経済教育の一環として、みずほと空想科学研究所がタッグを組んで、2024年4月に立ち上げた「空想金融教室プロジェクト」。そこで公開してきたエピソードに、新たに書き下ろしたイラストやコラム・用語解説などを加えて書籍化。「お金」について、親しみにくい投資の話から、難しく感じる金融や保険の話まで、有名な昔話を用いながら解説する一冊。






























