「子どもに金融教育を」って具体的にどうする? 悩む親に伝えたい『さるかに合戦』で教える資産価値の考え方

柳田理科雄(著),みずほフィナンシャルグループ(解説・監修),株式会社博報堂・博報堂ケトル(協力)
2026.08.12 10:45 2026.08.16 12:00

お金の教育と親子

人生100年時代に欠かせないのに、学校ではなかなか教えてくれない「お金の知識」。しっかりと子どもに教えたいけど、実際自分もよくわかっておらず説明できない、という親も多いのではないでしょうか。

そんな中、みずほフィナンシャルグループと空想科学研究所の柳田理科雄さんがタッグを組んだ『空想金融教室』が注目を集めています。なかでも『さるかに合戦』を題材にした章は、「おにぎりと柿のタネ、どちらが価値があるか?」という身近な疑問から、投資の核心である「現在価値と将来価値」の概念を見事に解き明かしています。

従来の金融教育では理解が難しい「時間の価値」や「割引率」といった概念を、誰もが知っている昔話で自然に学べるこのアプローチ。親子で「なぜサルはあんな提案をしたのか?」と議論しながら、資産価値の本質に迫ることができます。

今回は、この画期的な金融教育の実例として『さるかに合戦』の章を抜粋してご紹介します。

※本書は、『昔話でおカネの基本がわかる!空想金融教室』(小学館)より一部抜粋、編集したものです。

『さるかに合戦』おにぎりと柿のタネ、価値があるのはどっち?

空想金融教育

柿のタネを拾ったサルと、おにぎりを拾ったカニが、ばったり出会った。

おにぎりを食べたいサルは「カニさん、柿のタネをおにぎりと取り換えてあげるよ」と提案するが、カニは「柿のタネなんかいらないよ」と断った。するとサルは「おにぎりは食べれば終わりだけど、柿のタネをまけば、たくさん実がなるんだよ」と言う。

心を動かされたカニは、交換に応じる。そして柿のタネを庭にまき、「早く芽を出せ、柿のタネ。出さねば、はさみでちょん切るぞ~」と、こまめに水をやり、熱心に育てた。

柿の実がおいしく熟したとき、サルがやってきた。「柿の実を取ってあげよう」と言うと、柿の木に登り、熟した柿を自分だけがむしゃむしゃと食べた。

木に登れないカニが「こっちにもおくれよ」と頼むと、サルは「ふん。これでも食べな」と、青くて硬い柿の実を投げた。それが当たって、カニは死んでしまった。

だが、そのタイミングで、たくさんの子ガニが生まれる。子ガニたちはやがて、栗、ハチ、牛のフン、臼の力を借りて、サルの家へ乗り込んで、親ガニの仇を討つのだった。

柳田さん:うむむむむむっ。この話のどこに「金融の重要ポイント」があるのか、ぜんぜんわからん!そもそも物語のなかに、おカネは1円だって登場しないじゃん。筆者のココロに強く残ったのは、カニがあまりに気の毒なことだ。おにぎりと柿のタネの交換を持ちかけられ、一度は断ったのに「おにぎりは食べれば終わりだけど、柿のタネをまけばたくさんの実がなるよ」と、一見ナルホドの提案を受ける。それでつい話に乗ったら、柿の木を育てさせられ、果実はすべて奪われ、ついには命まで取られてしまった。悪夢のような事件ではないですか。

おにぎりも柿のタネも「資産」

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みずほさん:やっぱり興味深いお話ですねぇ、『さるかに合戦』。

柳田さん:あの、みずほさん、本気で言ってます?ワタクシにはこの話がおカネや金融にどう結びつくのか、まるでわかりません。みずほさんはなんで、そんなにニコニコしているのでしょう?

みずほさん:これ、「資産」の話ですよね。

柳田さん:し、資産?いや、カニもサルもおカネは持ってないと思うけど。

みずほさん:資産は、おカネに限りません。モノや土地や債券など、将来的に価値を生む可能性のあるもの全部です。

柳田さん:はあ。だったら、彼らの資産というのは……。

みずほさん:カニの資産はおにぎり、サルの資産は柿のタネ、といえます。そして、おにぎりと柿のタネは、その価値の考え方がだいぶ違うんです。

柳田さん:資産の価値の考え方……ですか?それは、サルが言ってた「おにぎりは食べれば終わりで、柿のタネはたくさん実がなる」ということ?

みずほさん:そうです。おにぎりは、いますぐ食べられるけど、日持ちしません。一方、柿のタネは、いまは食べられないけど、育てばたくさん実をつける。そのため、おにぎりは現在の価値で考えるだけでよいけど、柿のタネは「未来に生まれる見返り」も考える必要があるんですね。

柳田さん:なるほど……。確かに、おにぎりは明日には腐ってしまうかもしれないから、いまがいちばん価値が高い。反対に、柿のタネは現時点ではほとんど無価値だけど、はるか将来に価値が出る。

みずほさん:どっちも資産だけど、価値の考え方はかなり違いますよね。この2つを交換しようと持ちかけたサルの提案はおもしろい。

柳田さん:でも、交換の時点では、カニのおにぎりの価値が高いですよね?

みずほさん:そうとはいえません。金融では、将来にわたって生み出されるリターンも含めて、現在の価値を考えます。いまの価値だけを見た単純な比較はできないのです。

柳田さん:あの、みずほさん、さっきからサルの肩を持ってません!? サルはこの話の悪役で、そんなサルが持ってきた柿のタネですよ。心情的にワタクシは評価したくない。

みずほさん:柳田先生の気持ちはわかりますが、それを金融の視点で考えると、少し違って見えてくるのがおもしろくないですか?

柳田:まあ、それはそうかもだけど。

みずほさん:そもそも、物の価値は人によって違います。おなかが減っている人には、おにぎりの価値が高いだろうけど、食べるものに困っていない人には、将来の柿の実のほうが嬉しいかもしれません。

柳田さん:うむむむ、筆者はサルがカニをだましたヒドイ話だと思い込んでいたが、資産の交換という意味ではそうともいえないのか……。

資産価値の考え方

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金融においては、資産価値を考えるときに、その資産が将来生み出すお金や利益も踏まえて現在の価値を考えます。それは「柿のタネ」のように今は小さくても、成長すればたくさんの柿(の実)を生むように、「今あるもの」ではなく、「これからどれだけの価値を生むか」で考えるということです。

たとえば、「柿のタネ」をひとつ持っていて、それを植えると5年後に100個の柿の実がみのるとします。では、「100個の柿を今もらう」のと、「100個の柿を5年後にもらう」のでは、どちらがうれしいでしょうか。多くの人は、「100個の柿を今もらう」方がうれしいと感じるのではないでしょうか。

なぜなら、柿は今もらえればすくに食べたり、売ったりできますが、5年のあいだに柿の値段や自分自身の状況も変わるかもしれないからです。つまり、「今もらえる100個の柿」と「5年後にもらえる100個の柿」では価値の感じ方が違うのです。

なかには「5年後にもらえる100個の柿」よりも「今もらえる80個の柿」の方がうれしいと考える人もいるかもしれません。今80個の柿をもらって売れば確実にお金を手に入れることができますし、そのお金を5年間で別の方法で増やすことができるかもしれません。

これは「未来に受け取るものは、時間が経つ分だけ価値が小さくなる」ということであり、「時間の経過によって価値がどれくらい減るか」を示す割合(レート)のことを「割引率」といいます。

この割引率を使うことで、5年後に得られる100個の柿が「今の価値では何個分に相当するか」を計算することができます。

~将来の柿の価値の計算方法~

n年後の柿の価値=現在の柿の価値×1/(1+割引率)^n

たとえば、割引率を毎年10%とすると、「今もらえる100個の柿」は来年にもらう場合は約91個(100個×1/(1+10%))の価値と同じとなります。

同じ計算で5年後まで考えると、5年後の100個の柿は今の価値に直すと約62個(100×1/(1+10%)^5)と同じということになります。このように割引率を使って未来のモノやお金の価値を現在の価値に換算するのです。

この「将来の価値を現在の価値に割り引く」という考え方はお金や金融の世界で広く使われています。少し難しい考え方ですが、同じ金額のお金は、時間的価値を考えて、現在の価値>将来の価値であるということをここでは覚えておきましょう。

柳田理科雄

空想科学研究所主任研究員。東京大学理科Ⅰ類中退。学習塾講師を経て、1996年『空想科学読本』を刊行。『ジュニア空想科学読本』シリーズなど著書の発行部数は880万部。

空想金融教室

『昔話でおカネの基本がわかる!空想金融教室』(小学館刊/柳田理科雄(著)・みずほフィナンシャルグループ(解説・監修)・株式会社博報堂・博報堂ケトル(協力))

金融経済教育の一環として、みずほと空想科学研究所がタッグを組んで、2024年4月に立ち上げた「空想金融教室プロジェクト」。そこで公開してきたエピソードに、新たに書き下ろしたイラストやコラム・用語解説などを加えて書籍化。「お金」について、親しみにくい投資の話から、難しく感じる金融や保険の話まで、有名な昔話を用いながら解説する一冊。