発達障害の子育てで“お行儀重視”がデメリットになる理由 子どもの逃げ道をふさぐ「こうしないといけない」という価値観
「こうしないといけない」「こうするのが当たり前」そんな正しさに縛られ、気づかないうちに子どもと自分を追い込んでしまっていませんか?
とくに発達障害のある子どもを育てる中では、「できてほしい」という思いと現実のギャップが、親のストレスとなり、さらに子どもの負担につながってしまうこともあります。
「こうしなければならない」という思い込みを見直すことで、発達障害のある子どもとその親が少しラクになれる。そんな視点について、医師・星野歩先生の解説を紹介します。
※本稿は、星野歩著『3000人の発達障害の子を診察してきた医師が教える ASD (自閉スペクトラム症) ・グレーゾーンの子どもをありのまま育てる方法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から一部抜粋、編集したものです。
子育てのマインドセットを変えればラクになる
私は常々、親御さんの心の負担を少しでも軽くしたいと思っています。子育てにストレスはつきものですが、特に親御さんがまじめで一生懸命なあまり、「子どもは〇〇しなくてはいけない、ほかの子と同じようにできなければダメだ」と思い込んでいると、そのとおりにできないときに大きなストレスがかかります。
そのうえ、思いどおりにならないわが子に対して激怒してしまい、自己嫌悪の沼にハマる。一方、子どももそんな親に対して激しく抵抗したり、逆に萎縮したりする……。そんな悪循環から抜け出すためにご提案したいのが、「親のマインドセット(心の持ち方)を変えること」です。
6歳のお子さんを育てる、あるお母さんのケースです。イスに座らせて食事をさせようとしても、ASD に加えてADHD(多動)傾向があるためじっとしていられません。毎回全力でイスから抜け出してほかの遊びをしてしまい、まったく食事が進まないとのこと。どれだけ怒っても言うことを聞かないので、毎日の食事時間で身も心も疲れ果ててしまうそうです。
食事は毎日のことですから、負担は大きいものです。特にASD やADHD の傾向がある場合は、
□偏食がひどくて、好きな物しか食べられない
□多動が激しくて、落ち着いて食べられない
□ほかのこと(遊びなど)に集中しすぎて、少ししか食べられない
□これらの理由が入り混じってうまく食べられない……など
といろいろなパターンがあり、毎回が子どもとのバトルになっているという親御さんが多いです。必然的に、子どもは「食事どき=親がいつもガミガミ怒鳴る時間」と認識し、ますます食事に対して苦手意識を抱くようになってしまいがちです。
食事で一番大事なことは何?
食事において一番大事なのは、静かに座ってごはんを食べることや、好き嫌いなく何でも食べることよりも、何よりも「生きるために最低限の量を食べること」。食べて、元気に活動するために最低限の栄養をとれればいいわけです。ですから、第一目標をそこに置きましょう。
何はともあれ、わが子が食事を嫌なもの、嫌な時間だと思わないで過ごせるように、親
御さんが怒らないでいることです。そこで、「何かを食べることが一番大事、そのほかの
ことは後回し」とマインドセット(心持ち)を変えてみましょう。
具体的には、
□イスにじっと座って食べなくてもいい
□嫌いなものは無理に食べなくていい
□途中で遊ぶことを禁止せず、遊びの合間に食べるのでもいい
こう考えることで、今まで怒っていたことでも怒らなくてすむようになります。
実際に私も、息子の幼少期には、イスから抜け出してほかの場所に移動したらそこで食べさせたり、野菜全般を食べなくてもごはんやパン、フルーツなど食べられるもの、好きな食べ物だけを食べさせたりしていました。
もちろん、「決まった時間にイスに座ってお行儀よく食べましょう」という世間一般の常識とは違います。ですが、まずは生きていくために「最低限でも食べること」を目標にすれば、親御さんの心身の負担はずいぶんとラクになります。
テレビを見ながらでも、おもちゃで遊びながらでも、好きな食べ物だけでもいい。遊んでいるときでも、子どもが口を開けたらすかさず食べ物を入れる、そうしたらいつの間にか食べている。少しでもいいから、毎日何か食べるようにする――これを繰り返していくと、成長に伴って少しずつ座って食べられるようになっていきます。
避けてほしいのが、「そんなに嫌がるなら、もうごはんはおしまい!」と食事を取り上げてしまうこと。それを繰り返していると、ますます食が細くなってしまいます。子どもにとって、「食事=楽しいな♬」と感じることのほうが大切です。
お行儀よく食べなきゃダメとか、せっかく手間をかけて作ったのに、という気持ちはいったん脇に置いておきましょう。
絶対にきちんと食事をとらせなければいけないというマインドセットを転換して、まずは何でもいいから食べてもらうという目標だけクリアすればOKなのです。
「この子にとって幸せなのはどっち? 」を判断軸にする
食事はほんの一例にすぎません。「子どもは〇〇しなくてはいけない」「ほかの子と同じように、△△ができなければダメだ」という思い込みは、子どもが幸せに生きていくために果たして本当に必要不可欠なものなのでしょうか?
マインドセットを変えると、本質が見えてきます。
たとえば、集団生活における行事はどうでしょう? 保育園・幼稚園や学校に通うようになると、運動会や学習発表会、合唱会、卒業式など、多くの行事がありますね。
行事の練習がはじまると学校に行きたくないという、ASDやADHDのお子さんはたくさんいます。その特性から、じっとしていられない、楽器や合唱の大きな音がつらい、人に見られるのが嫌だ、緊張状態が続くことに耐えられないなど、さまざまな事情があり、行事を苦しく感じるのも当然です。
必要なのは、「休んじゃダメ」「ガマンしてがんばりなさい」ではなく、「休んでいいよ」「先生に言って、行事の練習の時間は外させてもらおう」と言ってあげること。
あまりにつらいようなら、行事当日に休んだっていい。大事なのは、わが子が園や学校に楽しく通うことであって、行事に出ることではありません。
実際、私の息子も集団登校にどうしてもなじめなかったため、一人で通っていました。無理に集団登校で行かせようとしていたら、学校に通えなくなっていたかもしれません。親御さん自身が「子どもは〇〇しなくてはいけない」と思い込んでいると、子どもは逃げ場がなくなります。「休んだっていいよ」「お母さん(お父さん)が一緒に行って、先生に説明してあげるから大丈夫」というふうに親が悠長に構えると、子どもはホッとして次の行動に移れるようになるのです。
親のマインドセットの転換で心がけていただきたいのは、「この子にとって一番大事なのは何か?」をつねに自分に問いかけることです。
行事に出ることや給食を完食することが大事なのか。
それとも、わが子が楽しく元気に暮らすことが大事なのか。
このような自問自答を習慣にすると、自然とわが子にとって幸せなほうを選べるようになっていきます。
POINT:「この子にとって一番大事なのは何か?」をつねに自分に問いかけるよう
にしましょう。
星野歩著『3000人の発達障害の子を診察してきた医師が教える ASD (自閉スペクトラム症) ・グレーゾーンの子どもをありのまま育てる方法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
いま、ASD(自閉スペクトラム症)と診断される子どもは約100人に3人にのぼるといわれています。グレーゾーンの子どもも含めると、もっと多いでしょう。
わが子の個性をどう受け止め、どう伸ばしていけばいいのか。
多くの方が、正解のない問いに対して一人で悩み、疲弊しています。
本書の著者は、20年以上にわたり、のべ3000人の発達障害児の診療に携わってきた医師・星野歩さん。
著者自身もかつては、幼少期にASD(自閉スペクトラム症)と診断された長男の子育てに悩み、葛藤した一人の母親でした。
医師としての診察と、母としての苦悩。
その両方を経験した著者だからこそたどり着いたのは、「親のマインドセット(捉え方)を変えれば、子どもは特性を伸ばし、親子ともにラクに生きられるようになる」ということ。
本書では、著者が大切にしてきた、ありのままの特性を活かすための具体的な接し方を、医師の視点でわかりやすく解説します。
