自分の人生を他人やAIに委ねない…子どもが「人生の主導権」を握るために必要な力
AIが身近になる中、子どもたちはこれまで以上に多くの情報や選択肢に触れながら成長していきます。他人やAIに流されず、“自分の人生”を歩むためには、どんな力が必要なのでしょうか。
フューチャリスト・友村晋さんの著書より、変化が激しく予測不能なAI社会に必要な能力「ライフハンドリング―やりたいことを知る力」についてご紹介します。
※本稿は、『わが子に教える AI時代に必要な7つの能力』(友村晋/日経BP)から一部抜粋・編集したものです。
「ライフハンドリング―やりたいことを知る力」の定義
勉強・仕事・家庭・お金・健康・幸せといった大事な要素を見つめ直し、自分の人生を自分で決める能力のこと。車の運転に例えるなら、行き先や速度などを、誰にも委ねず自分で決めて上手に運転する能力のこと。
自分の存在価値を見失ってしまうかもしれない
AIやロボットが仕事の効率を極限まで高め、人の仕事を請け負うようになれば、人の仕事は減っていくでしょう。その結果、現在の週休2日が週休3日になり、週休4日へとシフトしていく未来もやがて訪れる可能性があります。
休みが増えるからいいな、などとのんきに構えていられません。レジリエンスの章でお話しした通り、これまで何年もかけて培ってきたビジネススキルやノウハウがAIやロボットに取って代わられたことで、ある日突然、「この仕事は今度からAIに任せるので、君はもう必要ないよ」と肩をたたかれる日が来るかもしれないんです。
そうして暇な日々が生じたところに、SNSやネットニュースなどから様々な情報が押し寄せてきたら、暇である自分に焦りを感じたり、挙げ句は仕事をしていないことに対する罪悪感や劣等感まで抱きやすくなったりするでしょう。
そうして、結局自分は何者で、これから何をすればいいのかわからなくなり、自分の存在価値を見失ってしまうかもしれません。
これは危険な兆候ですよね。
そこで必要になってくるのが、自分の人生をしっかりとハンドリングするスキルなんです。
自然豊かなポートランドで暮らす夫婦のライフハンドリング
ちょっとイメージが湧きにくいかもしれません。そこで、僕が実際に見ることができたライフハンドリングの一例を紹介させてください。
それは、僕がアメリカのオレゴン州にあるポートランドという街を訪れたときのことです。ポートランドは全米で住みやすい街ナンバーワンに選ばれたことがある街なんですね。
それで、実際にどれほど住みやすいんだろう、と思って直接行ってみたんです。
訪れてみると、歩行者天国や公園が圧倒的に多くて、すぐに住みやすそうな街だと感じました。全国チェーン(ナショナルチェーン)の判で押したような店は少なくて、いかにも地元の人たちが経営しているといった個性的なお店が多いんです。
そこで僕は、レンタカーでコロラド川沿いに人里離れた山道をドライブしてみました。
しばらく走ると、突然小規模な動物園が現れたんです。観察してみるとそこにいる動物はブタやヤギ、ウシ、ロバ、アヒル、ニワトリ、イヌ、ネコなどが数匹ずついるのですが、それらの動物は柵で隔たれることなく一緒に放し飼いにされていたんです。イヌもゴールデンリトリバーのような大型犬からチワワのような小型犬まで一緒にいました。
敷地内には小川も流れていて、その先には小さな池もあります。そして小学生くらいの子どもと幼稚園児くらいの子どもが動物たちと楽しそうに遊んでいるではありませんか。なんとも牧歌的な光景です。
これは入場料を払う動物ふれあい広場といった施設だろうかと思って事務所らしき建物をよく見ると、どう見ても個人の一軒家のようです。
僕はこの状況が気になり、思い切って玄関のベルを押しました。そして出迎えてくれた男性に声をかけました。
「ここは有料の施設なんですか?」
するとその人物は答えます。
「いいえ、うちの庭ですよ」
「あの動物たちは?」
「うちで飼っている動物たちです」
「あの子どもたちは?」
「うちの子たちですよ。ああやって動物や自然と触れ合うことはいいことでしょう?」
聞けばこの敷地はこの人の私有地で、小川も小池も手作りだと言います。
「池には魚もいるよ。時々子どもたちと釣りをするんだよ。まぁ、田舎だから安く手に入った土地なんだけどね」
「失礼ですけど、お仕事は何をされているんですか?」
彼は、近くの採石場で働いていると言います。
「あれだけの動物を飼うのは大変じゃないですか?」
僕は好奇心のままに次々と質問をしましたが、彼は嫌な顔もせずに答えてくれました。
「そうだな、給料は餌代で全部消えちゃうからね。毎日大変さ。あはははは」
大変だと言いながらも実に愉快そうです。
「いや、豊かな自然に囲まれて羨ましい暮らし方ですよ!」
「ありがとう、みんなそう言ってくれるよ。先日もニューヨークから旅行に来たというお金持ちらしき夫婦が通りかかってね」
なんでもここの家と土地、動物たちが気に入ったので、まるごと200万ドル(約3億円)で売ってくれないかと持ちかけられたそうです。
「もちろん、断ったけどね。お金の問題じゃないんだよ。確かに餌代などでキツキツの経済状態だけど、子どもたちものびのび育てることができるし、僕たち夫婦にとっても豊かな生活なんだよ。かけがえのないね」
最近ではこの暮らしぶりが噂で広まって、近所の小学校の遠足のコースにも組み込まれ、たくさんの子どもたちが遊びに来てみんな喜んでくれているんだ、と愉快そうに話してくれました。
「まさに、プライスレスだな」
そう言って彼はおおらかに笑いました。
中を見学させてもらっている間に奥様にも会えましたが本当に2人で幸せそうでした。いかがですか? 2人とも自分の人生をしっかりとハンドリングできていると思いませんか?
恐らく、この御夫婦のライフハンドリングは、これからAIやロボットがどれだけ進化してもブレることはないでしょう。お2人にとって幸せの定義が明確だからです。
ただ、この夫婦の例は、自然が豊かな田舎だからこそ実現したライフスタイルです。読者の皆さんの中には都市部に暮らしている人も多いでしょう。都市部で暮らしている人たちにとって本当にやりたいことにはどんなことが考えられるでしょうか。幸せの形は人それぞれですが、僕なりに少し例を出してみましたので、ヒントにしていただければと思います。
身体を動かし健康を維持するなら……
・ウオーキング
・マラソン
・ジムに通う
・スポーツクラブに入る
自然と触れ合うなら……
・登山
・キャンプ
・パワースポット巡り
・屋上やシェア農園での家庭菜園
人とのつながりや人の役に立つことなら……
・ボランティア
・子どものPTA役員
・子供会への参加
・町内コミュニティーでの係
・SNSで情報発信
大好きな趣味に没頭するなら
・DIYでモノ作り
・映画や読書、ゲーム
・楽器演奏、絵画制作
このように、自分が大切にしている価値観が確たるもので、周りの人たちを見ても妬みや焦りを感じないことを大切にして生きる。これがライフハンドリングです。
自分の人生が他人やAIにハンドリングされてしまう
このライフハンドリングができていないと次のような感情を持つようになります。
・AIが自分の仕事に及ぼす影響が毎日不安だ
・SNSでリア充アピールを続けて、「いいね!」された数が気になって仕方がない
・はやりの服やブランド品を身に着けて成功していると思われたい
・あの人より稼いで、いい暮らしがしたい
・あの人に言われたから、嫌だけど今この仕事をしている
・あの人に好かれたいから、今こんな人生を歩んでいる
─などなど。
こんなふうに自分の人生が他人やAIにハンドリングされてしまうんです。読者の皆さんも、1人の大人としてこれらに心当たりはありませんか?
あなたの人生は誰のものですか?
そもそも、他人やAIに依存した意思決定をしてしまったら、失敗や後悔をしたときに、その責任は誰にあるのでしょうか?
他ならぬ自分自身なんです。ならば、常に自分が人生の主導権を持ち続けられるように、その重要性を子どもにしっかりと教えましょう。
『わが子に教える AI時代に必要な7つの能力』(友村晋/日経BP)
AIの浸透で、フェイクが増え、技術が答えを教えてくれ、情報も人も個性を失い、分断が進み、先人の知恵が役に立たず、お金を稼ぎにくく、変化が激しい時代がやって来ます。本書はこの現実を直視し、親が家庭で教育できる実践的な方法を提示します。学校が変わるのを待つのではなく、親が扉を開く。そのために必要な視点と手順が、具体な例とともにわかりやすく示します。
