子どものころから絵がうまくないと無理? 人気アニメを支えるアニメーターの意外な素顔
夢中になって絵を描く子ども。アニメが大好きで、お気に入りのキャラクターを何度も描いているけれど、「うちの子、絵が特別うまいわけではないし…」。
「子どものころから絵が上手じゃないと、アニメーターにはなれないの?」──そんな疑問に答えてくれたのは、人気作品を支える若手アニメーターの蕭宇庭(ショウ・ユーティン)さんと中村直樹(なかむら・なおき)さんお二人。アニメーターという仕事の魅力ややりがい、プロになるまでの道のりを聞きました。
※本稿は、エンタメおしごと研究会編集『芸能・アニメ・ゲーム・音楽・マンガ エンタメおしごと図鑑』(サンクチュアリ出版)より一部抜粋、編集したものです。
どんなしごと?どうやってなるの?
一般的なアニメ作品は、1秒あたり24枚の絵をつなげて制作します。その絵のうち、キャラクターの「動き始め」「動き終わり」など、動きのポイントとなる絵をかく人が「原画マン」。原画と原画の間をおぎなう絵をかく人が「動画マン」です。
全員まずは動画マンからスタートして、1日20〜30枚程度かけるようになったら、試験を受けて原画マンになります。原画マンになると、絵コンテをもとに画面のレイアウトを決め、原画をかくところまで担当します。
ちなみに紙とえんぴつで絵をかく会社もまだありますが、パソコンとペンタブレットで作業する会社が増えています。
その後は、原画のチェックや修正を行う作画監督、複数人の作画監督をまとめる総作画監督、他にも監督や演出家などへの道があります。
うれしいこと、つらいことは?
1枚1枚の絵が集まって物語が動き出す瞬間は、何年経っても感動します。子どものころ夢中になったアニメを、今度は自分がつくっていると実感できるしごとです。
ただ、体力勝負のしごとでもあります。長時間絵をかき続けるため、体のあちこちがいたくなることがあったり、ゆっくりと休めなかったりすることも。
それでも放送後に、自分のかいたカットを「このシーンよかった」とほめてくれている声を見つけると、つかれをわすれてしまいます。
アニメーターになれるのは、子どものころから絵がうまい人だけ?
そうとは限りません。デッサンやトレース(模写)の練習をして画力を身につけ、アニメーターの試験に合格する人も多数います。ただ、実際のアニメ制作現場では、想像以上に高い画力が求められます。
欠かせないしごと道具
タブレット( iPad Pro がおすすめ)、タッチペン、ペイントソフト(現在はCLIP STUDIOが主流)。デジタル作業ならこの3つがあればOK。原画マンは、体の動きやポーズを確認するためのデッサン人形や鏡をデスクにおいていることも。
もっと知りたい!
Q:なり方は?
A:美術系の大学や専門学校で絵を勉強して、アニメ制作会社の実技試験を受けるよ。フリーランスとして「業務委託契約」を結ぶ場合が多いけど、大きな会社なら正社員・契約社員として採用される場合も。
Q:休日は?
A:フリーランスなら自分で決められるけど、かく枚数がとても多くて、月平均5〜6日ということもあるよ。
Q:教育制度はある?
A:最初の数カ月は研修期間。先輩アニメーターからしごとを教わるよ。
Q:何年目でひとりだち?
A:研修期間が終わったら、基本的にはひとりでしごとをこなしていくよ。そのあと、2〜3年で原画マンになる試験を受けて、受かったら一人前のアニメーターに。
Q:男女比は?
A:男女半々くらい。作画監督は男性のほうが多め。
Q:何さいまで働ける?
A:何さいまででも。作画監督を目指さず、原画が制作を極めるベテラン原画マンもいる。
アニメーター 蕭宇庭さん、中村直樹さんインタビュー
「アニメ好きの子ども」から、「アニメ制作を支えるプロ」へ
アニメ制作の心臓部ともいえる職業、アニメーター。実際のアニメ制作現場では、どんな人たちが活躍しているのでしょうか。数々の人気作品にたずさわる若手アニメーターの蕭宇庭(ショウ・ユーティン)さん、中村直樹(なかむら・なおき)さんに、たいへんだけど夢中になってしまう、アニメーターというしごとの″沼″をお聞きしました。
子どもの心を動うごかすアニメ作品にあこがれて
―アニメは子どものころから好きでしたか?
蕭:はい。台湾では日本のアニメがたくさん放送されていて、私も『ポケットモンスター』や『ONE PIECE』をよく観ていました。『ドラえもん』なんて、週5日やっていたんですよ。
中村:へぇ〜ほぼ毎日ですね! ぼくも『ドラえもん』が大好きで、『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』を観たときに感動してなみだが出たんです。子どもの心をそこまで動かせる作品ってすごいなと思って、アニメをつくるしごとに興味を持ちました。
― それがアニメーターを志したきっかけだったんですね。
中村:はい。ただ、当時は絵より工作のほうが好きで、最初に興味を持ったのは3DCGでした。アニメの専門学校に入ってから初めて絵の勉強をして、だんだんアニメーターを目指すようになっていきました。蕭さんは子どものころから絵が好きだったんですよね?
蕭:うん。小学生のときから好きで、高校はデザイン系の学科、大学はアニメとゲーム制作の学科に進学しました。
「アニメーターになろう」と決めたのは、大学時代に、日本でアニメーターとして働いている台湾の人のお話を聞いてから。台湾のアニメはCGが多いので、手がきのアニメ制作を学ぶために日本の専門学校に入って、そのまま日本でアニメーターになりました。
― おふたりとも、動画マンからスタートしたと思いますが、当時は月に何枚くらいかいていましたか?
蕭:かいたあとの修正枚数もふくめたら、900枚をこえた月もありました(笑)。
中村:ぼくはそこまではいかないですが、月400〜500枚くらいだったかな。
動画マンは、かいた枚数で収入が決まるので、最低でも300枚はかかないと生活がきびしいんです。
だから単価が高いしごとはうれしい。高めなのはCMですよね。次に劇場版、いちばん低いけどしごとがたくさんあるのがテレビシリーズ。
― 動画マン時代は、たくさんかいて技術をみがく修行期間のようなものなんですね。そこから原画マンになるまでの流れは?
蕭:私が契約している会社では、動画マンを1〜2年、動画検査(絵をチェックする人)を1〜1年半経験して、原画マンになる人が多いです。
私も中村くんも同じような感じですね。原画の研修を受けて、レイアウトをかいて先輩に見てもらって、OKが出たら原画マンになれます。
キャラの表情や演技が引き立つ構図を考える
― 原画マンは、アニメのポイントとなるカットをかいていく重要なしごとですが、実際の現場ではどのようにしごとを進めるのでしょうか?
蕭:まず、絵コンテをもとにカット全体のレイアウトを作成します。これが「第一原画」。
第一原画ができたら演出家や作画監督にチェックしてもらい、指示にそって修正したりキャラクターのかきこみを行うのが「第二原画」。
そのあと、原画と原画の間をおぎなう絵を動画マンがかく、という流れです。
中村: 第一原画と第二原画は基本的に同じ人が担当します。すべての作業を合わせると、ぼくの場合は月に30〜50カットくらい。ベテラン原画マンだと50〜60カット以上はかいていると思います。
蕭: 原画は動画とちがって、時間のかかりそうなカットは最初から単価を高くしてくれていることが多いよね。
― 原画のしごとでいちばん楽しいところは?
蕭:この前、ふだんは無表情のキャラクターなのに、絵コンテに「笑う」と書かれていたカットがあったんです。
「このキャラを笑わせるの!?」と思いながらも、「笑うなら目元が少し下がる感じかな」「大口は開けないよな」といろいろ想像して絵をかくのはとても楽しかったです。
どんな構図のカットにすれば、キャラの表情や演技が引き立たって、かつ画面的にもきれいに見えるか。そういうことを考えているときも楽しいですね。楽しい反面、いちばんなやむところでもあります。
中村: 自分でかいた原画と原画をつなげて試しに再生してみることがあるんですが、そのときはテンションが上がります。
完成前のアニメを観ることができるのは、つくり手だけなので、「自分はアニメをつくるしごとをしているんだなぁ」と実感してうれしくなっちゃう。
― 反対に、たいへんだと感じるところは?
中村:かき終わったときは「よくかけた」と思っても、次の日に見直すと「なんだこれ!」ってショックを受けることはよくあります。
そこからかき直してクオリティを上げていく作業も楽しいけど、しめ切りがあるので、時間内に納得のいくカットに仕上げなきゃいけない。
蕭: 分かる。永遠にかき直したいよね(笑)。
大切なのは「絵をかくのを好きでい続けること」
― 原画マンの次のキャリアとしては、どんな道があるんですか?
蕭: 原画一筋でやっていく人もいれば、キャラクターデザインや作画監督、演出家、あるいは監督を目指す人もいます。
年齢は関係なく、本人のやる気と能力次第でいろいろな道に挑戦できる業界だと思います。
―おふたりの目標は?
蕭: 原画のしごとは楽しいのでまだ続けたいですが、私、ひとつのしごとだけに集中するのが苦手で(笑)。最近は人間以外にも動物や恐竜の絵にチャレンジしたり、原画だけでなくプロップ( 小物)のデザインも担当させてもらったりしています。
興味のあることにはどんどん挑戦していきたいですね。
中村:ぼくは原画の経験がまだ浅いので、しばらくは原画に集中していたいです。
ただ、近年のアニメは3DCGがすごく増えていますし、3DCGを制作してそれを原画に起こすアニメーターさんも多いと聞いているので、いつかその道に挑戦する可能性はあるかもしれません。
― 最後に、アニメーターを目指す子どもたちにメッセージをお願いします。
蕭:アニメを制作しているのは大人たちですが、みんなどこかに「子どもの心」を持ち続けていると思います。子どものころに楽しいと感じたことやワクワクしたことが、アニメづくりにいかされることは多いと思うので、今しか得られない感情や体験をずっとわすれないでいてほしいです!
中村:ぼくは子どものころから絵が好きだったわけではありませんが、今はかくことがとても楽しくて、思うようにかけなくて苦しいときもあるけど、かくことで少しずつ上達していくのがうれしいです。
アニメーターにとっていちばん大切なのは「絵をかくのを好きでい続けること」なので、絵をかく楽しさを今のうちからたくさん味わってほしいなと思います。

エンタメおしごと研究会(編集)『芸能・アニメ・ゲーム・音楽・マンガ エンタメおしごと図鑑』(サンクチュアリ出版)
芸能・アニメ・ゲーム・音楽・マンガなど、エンタメの世界の仕事だけに絞った小学生向け職業図鑑です。
表舞台に立つ人だけでなく、マネージャーやヘアメイク、ゲームクリエイターなど、エンタメ界を支える149の職種を紹介しています。
各職業のインタビューで「どんな子が向いているか」も掲載。「なりたい」憧れと「向いているかも」の両方の視点から仕事を見つけられる一冊。