メダリスト目指す難聴のジュニア選手 支える家族のリアルとは? 父・母・姉それぞれの目線

玉造美穂

デフリンピック・オリンピックへの出場を目指し、日々プールで鍛錬を重ねる小学6年生の玉造珠宇さん。
週7回の練習、大会の送迎、全国各地での合宿など、その背後には、父・母・姉それぞれの支えがあります。

家族がどのように珠宇さんを支えているのか、その日常と本音を、珠宇さんの母・美穂さんにお話しいただきました。

※本記事は2025年8月に実施したインタビューをもとに作成しています。掲載内容は取材当時の情報であり、現在とは異なる場合があります。

親は付き添いの日々

──日々の練習や大会において、親御さんはどんなサポートをされていますか?

これは……もう大変です(笑)。

今、珠宇は週に7回水泳の練習をしています。日曜日は休みですが、土曜日は朝練と通常練習の2回練習があるんです。この夏休み中も、強化練習で朝6時から8時、午後1時から3時の4時間ほど泳いでいます。

週末には大会も入るため、毎回送迎しています。チームで移動するわけではないので、親が付き添わないといけないんです。

例えば、大会開始が9時半だとしても、6時に家を出て、6時半には会場に到着します。到着後は軽くトレーニングをしたり休息を取りながら時間を過ごし、7時半頃には集合列に並んで会場へ送り出し、大会にもよりますが、終了は午後4時〜5時になります。

──ご本人だけでなく、親御さんにも相当な熱意が必要ですね。

父親はすごく熱心ですね。両親が二人で熱を入れすぎると、子どもも大変になってしまうので、私は少し引いた立場で見守っています。
きっと、ここに父親がいたら、もうずっと語り倒していると思います(笑)。

──合宿もあるんでしょうか?

合宿の種類によります。例えば、JSS(珠宇さんの通うスイミングスクール)の合宿であればバスが出るので、そのままお任せできます。

ですが、障害者向けのデフ水泳の合宿の場合は、親が付き添わなければなりません。全国各地で開催されるので、そのたびに私たちもついて回っています。

──親御さんのプライベートがすべて費やされますね。

まあでも、うちは一人っ子じゃないですからね。娘もいますし、全部をここに注ぎ込むわけにはいきません。珠宇は父親に任せて、私は娘と過ごすなど、時間を分けてやっています。

姉との時間も大切に

──お姉さんと珠宇さんの関係はどうでしょうか?

やっぱり2歳差ですからね。小さい頃の姉は、「ママを取られた」という気持ちが強かったです。

珠宇はろう学校に通っていたので、幼稚部では授業から帰宅まで親がずっと付き添う必要がありました。娘が家に帰ってきても、私は珠宇の言葉や聞こえの練習と手話に時間を使っていたため、どうしても娘にはしわ寄せがありましたね。小さい頃は特に、「珠宇はなんとか言葉を身につけてほしい」という思いで時間を費やしていたので、娘は少ししょんぼりしていました。

どの家庭でもあることだと思いますが、とくに障害のあるきょうだいがいると、健常の子が少し割を食うことがあるかもしれませんね。

──きょうだい間のバランスをとるために、気を付けていることはありますか?

小さい頃は、「あなたとママだけの日記ね」と鍵付きのダイアリーを持たせて、交換日記のようなことをしていました。珠宇は「ずるい」なんて言っていましたけど(笑)。
あとは、とにかく可能な限り一緒に過ごすようにしていましたね。

今は彼女も中学2年生で、ちょっと難しい時期に入っていますが、それでも彼女が好きなことにはとことん付き合うようにしています。例えばカラオケが好きなので一緒に行ったり、彼女の興味のあるところに出かけたり。できるだけ一緒に楽しんでいます。

夫婦それぞれのサポート

──珠宇さんのモチベーションが下がったとき、親御さんとしてはどのようにサポートされていますか?

自分の思っていたタイムが出なかったり、友達に負けたりすると、珠宇も気分が下がりますよね。

そんなとき、父親は理詰めで説明したり、つい熱くなって怒ったりしがちなので、私は別の方法でサポートするようにしています。例えば、おいしいものを作ったり、「ちょっとテレビ見ようか」と気分転換を促したり。

プールとは別のところに意識をそらすようにして、「こういう面白いこともあるけど、どう思う?」と視野を広げるような感じですね。

──お父さんは珠宇さんに期待しているんですね。

父親はデータをすごく集めて分析して、「今どんな子がどんなタイムなのか」「正しいトレーニングの方法は何か」とひたすら調べるんです。スポーツ全般いろいろ経験してきているので、知識が豊富なんですよ。

真面目な人なので、「このくらいのトレーニングをすれば、このくらいのタイムが出るはず」という予想を立てるんです。その予想と大きくずれると、怒ることもありますね。

なので私は、ちょっと目先を変えてフォローをするなどして、バランスを取るようにしています。

母として今思うこと

──水泳に限らず、これから珠宇さんにどう育ってほしいと感じますか?

そうですね、水泳はもちろん頑張ってほしいですが、それ以上に、いろんな人と関わって、いろんな経験をしてほしいなと思っています。

私自身、海外で過ごした時間が長く、いろんな文化や人との出会いが人生を豊かにしてくれました。だからこの子にも、競泳以外の場でも、いろんな人と出会ってほしいんです。
今は生活の9割くらいが水泳中心なので、旅行もほとんど行けないし、イベント事もあまり体験できていないんですよね。

この前、「万博に行きたい」と話したら、珠宇に「万博って何?」って言われて。あれ、これはまずいぞと思いました。そこでYouTubeで映像を見せて、「いろんな国から人が集まって、自分の国を日本に紹介してくれるんだよ」と説明しました。

そんなことがあったので、全国大会が終わった8月末に、珠宇と姉を連れて3人で大阪に行くことにしました。万博はもちろん、USJにも。父親は仕事の都合で行けないのですが、すこしプールから離れて、親子で楽しんできたいと思います。

(取材・文:nobico編集部)