最大のクマ対策は「出遭わないこと」クマの気配に気づくための4つの痕跡
子どもと一緒にハイキングや山登りを楽しむことは、自然に触れ、普段とは違う体験ができる貴重な機会です。一方で、山に入るとどうしても気になるのがクマの存在。クマスプレーは必要?走って逃げてはいけない?と、万が一の時の対策を考えることも大切ですが、何より重要なのは、そもそもクマに出遭わないことです。
山や森には、実はクマが近くにいることを知らせる「痕跡」が残されていることがあります。お出かけを安全に楽しむために知っておきたい、クマの4つの痕跡について、小池伸介先生の解説をご紹介します。
※本稿は、山﨑晃司(編著)『クマに出遭ってしまったら?』(PHP研究所)より一部抜粋、編集したものです。
痕跡からクマの気配に気づく
市街地ではめったに見つけることはできませんが、森に入るとクマ類(ここではヒグマとツキノワグマ)のいくつもの特徴的な生活痕跡を見つけることができます。残された手がかりが新しいものとわかれば、まだ近くにいる可能性のあるクマと鉢合わせないよう、対策がとれるかもしれません。
代表的な痕跡の一つがフンです。クマ類のフンは大きさや形から、ほかの動物のフンと簡単に見分けることができます。ほとんどのクマ類のフンはにおいがしない点も、ほかの動物のフンと見分けるポイントです。クマ類のフンの形や色は食物の種類によって異なります。
たとえば、草木の葉やドングリなどを食べたときには、多くの場合、牛フンのような形状をしています(写真1)。また、ウワミズザクラなどの水分を多くふくむ果実を食べたときには、消化されないまま出てきた種子が目立つことが多く(写真2)、排泄直後のフンには果肉の色が残っています。たとえば、サルナシの果実を食べたクマのフンはキウイジャムのような色に、ヤマブドウの果実を食べたクマのフンは鮮やかな紫色になります。
フンは雨に流されたり、コガネムシの仲間に食べられたりするため、通常は排泄後すぐに分解が始まります。つまり、形が崩れておらず、コガネムシの仲間も飛んできていないフンがあれば、夏の場合は少なくとも24 時間以内に、そこにクマ類がいたことを示すと考えてよいでしょう。
ツキノワグマが樹上につくる「クマ棚」も特徴的な痕跡の一つです。ツキノワグマは、木に登り、枝を折り、折った枝を手元にたぐり寄せて樹上で果実や花、新葉を食べます。折れた枝が樹上に残り、鳥の巣状になったものが「クマ棚」です(前頁、写真3)。クマ棚は枝葉が茂っているうちは見つけにくいものですが、落葉後には簡単に判別することができます。クマ棚になっている枝の葉が新鮮な状態であれば、作られて間もないクマ棚であると判断することができます。
さらに、クマが登った木の幹には爪痕が残されることがあります。一般的に、点々とした爪痕(写真4)は木に登るときにつけられ、長細い線状の爪痕(写真5)はクマが木から降りるときにブレーキとして爪を使った跡です。いずれも樹皮がはがれることで形成され、形成後に痕が長く残るため、はがれた樹皮が新鮮な状態であれば、最近残された爪痕だと判断できます。
足跡は肉球のほか、5本の指と爪痕が残ることが多いのですが、落ち葉が積もった森林で見つけることは困難です。泥の上、砂の上や雪の上(写真6)では、すぐに発見できます。足の大きさがほかの動物にくらべて大きく、肉球も大きいので他種との区別がしやすいでしょう。
歩行パターンがジグザグになることが多く、肩幅があるので左右の足の間隔が空いています。足跡はすぐに消えてしまう痕跡であることから、輪郭のはっきりした足跡が見つかったということは、直近までそこにクマがいたと考えることができます。山や森でこれらの痕跡を見つけたら、近くにクマがいるかもしれません。クマと出くわしたりしないよう、十分に警戒する必要があります。
【POINT】
● 山や森に入るときは、フンやクマ棚、爪痕、足跡などに注目する。
● 痕跡が新しいものなら近くにクマがいる可能性が高いので、十分に警戒する。
【執筆者】
小池伸介(こいけ・しんすけ)
東京農工大学大学院農学研究院教授
1979年、名古屋市生まれ。東京農工大学大学院連合農学研究科修了。博士(農学)。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。現在は、東京都奥多摩、栃木県、群馬県の足尾・日光山地、神奈川県丹沢山地などでツキノワグマの生態や森林での生き物同士の関係を研究。著書に『クマは都心に現れるのか?』(扶桑社)、『クマが樹に登ると』(東海大学出版会)など。2024年よりNGO 日本クマネットワークの代表も務める。
