「イヤイヤは抱きしめれば落ち着きます」育児書のアドバイスに絶望 育児に挫折しかけた発達障害の声優が、過去の自分に伝えたいこと
声優として活躍する中村郁さんは、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)の特性を持つ当事者で、2人の女の子の母でもあります。
そんな中村さんも、イヤイヤ期の娘の子育てに翻弄された一人。物事にのめり込みやすい特性から、子育てにも懸命に向き合ったものの、育児書のアドバイスと現実とのギャップに打ちのめされたそう。そんなかつての自分に、今伝えたいこととは。
一方で、自身の特性が子育てに役立ったと感じる場面もあったといいます。本記事では、中村さんが語る「自分なりの子育て」について、著書をもとにご紹介します。
※本稿は中村郁(著)『発達障害・グレーゾーンかもしれない親の子育て』(かんき出版)から一部抜粋・編集したものです。
※発達障害の特性や子育てのあり方には個人差があります。本記事の内容がすべての方に当てはまるものではありませんが、ひとつのヒントとしてご覧ください。
特性を抑える→育児書に縛られ過ぎない
私たち発達障害を持つ親は、のめり込むと夢中になりやすいため、当然のように「子育て」にも真剣に取り組みます。
私も、娘がお腹に宿ってから、子育てに関する本を読みまくりました。
胎教にモーツァルトが良いと知って、一日中モーツァルトを聴きまくり、生まれてからも、その月齢にふさわしい関わり方や、与えたほうが良いおもちゃなど、調べまくって実践していました。
育児書には、おおまかな子育ての流れが示されており、初めて育児をする親にとってはたいへん役に立つものです。
しかし……、子どもが成長するにつれて、育児書のとおりにいかないことが山ほど出てきました。
夜泣きなども、もちろんたいへんでしたが、いちばんたいへんだったのは娘が2歳の頃の「イヤイヤ期」でした。育児書で調べていたので覚悟はしていたものの、ウチの長女のイヤイヤは、同年代の子どもたちのイヤイヤと一線を画す激しさだったのです。
ベビーカーに乗せると、暴れて泣き叫び、抱っこもイヤ。歩きたいというので歩かせたら、途中でイヤになって泣き叫ぶ。
道を歩いていて気になるものがあったらそこから離れなくなり、無理に連れて行こうとしようものなら、地面にひっくり返って泣き叫ぶ。
スーパーでも、大騒ぎしながら床に転がって泣き叫ぶ子でした。
周りのお母さんたちからは気の毒がられ、迷惑をかけているという気持ちと、申し訳なさで、スーパーに行くのが怖くなりました。
真冬でも、娘は靴下を履くことを嫌がり泣き叫ぶので、仕方なく靴下を履かせずに抱っこしていたら、道ばたで通りすがりの知らない人から、「あの子、靴下も履かせてもらえなくてかわいそう……」と言われる始末。
正直、泣きたくなるような日々を過ごしていました。
たまりかねた私は、本屋さんに行き、小児科の先生が書いたという1冊の育児書を手に取りました。
イヤイヤ期をどうしたら乗り越えられるのか? 藁にもすがる思いで手にしたその本に書いてあったのは……。
「落ち着いて、優しく抱きしめてあげてください。そうすれば、必ず子どもは落ち着きます。2歳の子どもなら、あなたの腕の中にすっぽり収まって安心してくれるでしょう」
「へっ?」私は目を疑い、思わず突っ込まずにはいられませんでした。
「いやいやいやいや……! 抱っこなんてさせてくれないんだって!!」
一度イヤイヤが発動したら最後、前後左右に体をよじり、抱っこしようとしても、のけぞって抱っこなどさせてくれません。床に寝転がって泣き叫ぶ我が子を抱きかかえようとしても、怪獣のように暴れまくり、下手したら落として怪我をさせてしまうような状態なのです。
本屋さんで絶望の淵に立たされた私は、それ以来、育児書に頼ることはやめ、あくまでも「参考程度」に受け取るようになりました。
実際、育児書に書かれている内容とリアルな育児では、くい違うことばかりでした。
たとえば、トイレトレーニング。本には、「2歳から3歳までに」と書かれています。ウチの娘はおむつが取れるのが遅く、非常に悩みましたが、3歳半のある日、突然、何の前触れもなく、おむつは取れました。それ以降、一度もおもらしをしていません。
また、発語も本に書かれている一般的な時期よりも遅く、ちゃんと話せるようになるのか心配しましたが、8歳になった今、娘はとてもおしゃべりな女の子に育っています。
何より、イヤイヤ期にあんなにも無茶苦茶わがままで手に負えなかった娘が、とても穏やかで優しい女の子に育っていることに、心底驚いています。
あのとき、本屋さんで絶望の淵に立たされた私に、「大丈夫だよ」と声をかけてあげたい気持ちです。
一般的な常識を知ることも大切ですが、それより大切なのは目の前の我が子です。
育児書や周りの子に振り回されず、子どもの成長を優しく見守りましょう。
もちろん、よその子と比べる必要もありません。
子育てで悩み苦しんで、泣きそうになることがあるかもしれませんが、大丈夫! 子どもは自分のペースで、ちゃんと日々成長します。
子どものことは、親である自分が誰よりも知っていると自信を持ちましょう!
特性を活かす→子どもと「横の関係」を築く
発達障害の中でもADHDの特性を持つ人は、好奇心が旺盛な人が多いと言われています。知らないことへの探求心が強く、なんでもぱっと行動に移すところがある反面、衝動性や、飽きっぽさにより、興味が次から次へと移るのです。
実際に私も、乗馬、英会話、編み物、ゴルフなど、次々に興味を持って、やりはじめてみては、そのうち飽きてやらなくなる……ということを繰り返してきました。
子育てをしてみてわかったのは、実はこの「好奇心旺盛な特性」が、とても役に立つということです。
子どもは、いろいろなものに興味津々です。
お絵描きをしてみたり、おままごとをしてみたり、泥だんご作りをしてみたり……。その都度、全力投球で遊び、飽きるとまた別の遊びに全力投球。
そんな子どもとのコミュニケーションでいちばん大切なことは、子どもと一緒に遊ぶこと。
ADHDの特性を持つ親の強みは、まさにここにあります。子どもと同じ目線で遊び、対等な関係を築くことができるからです。
少し前から、娘はけん玉にはまっています。毎日毎日、飽きずにやっているので、驚くほど上達して、さまざまな技を決めては、私に見せてくれます。
実は、何を隠そう私も子どもの頃はけん玉が得意でした。そのため、娘がけん玉をする姿を見ているうちに、ムクムクと興味が湧いてきて、最近は娘と一緒にけん玉で遊ぶようになりました。すぐに夢中になる私は、気がつくと、いつの間にか娘より真剣になっていて、ふと我に返り、ハッとなることがあるほどです。
もちろん、娘より明らかに下手くそで、ぜんぜんうまく技を決められません。
娘は、何度も失敗しながらも必死に頑張る私を見て、大爆笑しながら優しく教えてくれます。私たち2人が大騒ぎしながらけん玉をしている姿を見て、夫は「まるで友だちみたいやなぁ」と言いながら、笑っています。
けん玉はひとつの例で、このように娘と私は一緒に何かに取り組む……というか、遊ぶことが多いのです。
一緒に遊んでいると、娘は私にいろいろな話をしてくれます。私から聞かなくても、学校であった面白かったこと、嬉しかったこと、嫌だったこと、お友達と喧嘩したことなども話してくれるのです。
一緒に遊ぶことで、娘と良いコミュニケーションを取れています。
アドラー心理学では、親子の関係は「横の関係」であることが大切だとされています。
親は子どもに命令したり干渉したり指示するのではなく、子ども自身が考えて行動する機会を与え、成長していくのを隣でサポートしていく……。
そんな「横の関係」を築くことで、子どもは自立し、他者との信頼関係も育まれ、社会生活においても良好な人間関係を築きやすくなるのだそうです。
逆に、親が命令したり指示したりする「縦の関係」では、子どもは自立心を失い、依存心が強くなる傾向があるのだとか。
子どもの好きなことをして一緒に遊ぶという行為は、アドラー心理学の「横の関係」を築くのにとても役に立つなぁ、と感じています。
ポイントは、子どもが自主的にやっている遊びに、一緒に乗っかること。親が提案するものではなく、子どもが好きでやっていることに、一緒に乗っかっちゃいましょう!
今日は娘が、羊毛フェルトのぬいぐるみの作り方が書かれた本を図書館で借りてきました。「これ、作ってみたい」と娘が言います。羊毛フェルトのぬいぐるみは、私も昔から一度作ってみたいと思っていたので、週末は手芸屋さんに行き、羊毛フェルトを買って、さっそく娘と一緒に作ろうと思います。
何にでも興味が湧いてくるADHDのこの特性に、私は心から感謝しています。

中村郁(著)『発達障害・グレーゾーンかもしれない親の子育て』(かんき出版)
「子育てがしんどいのは、私の努力が足りないから?」
「どうして、他のお母さん・お父さんと同じようにできないんだろう……」
そんなふうに、自分を責め続けてきた発達障害のあるお母さん・お父さんへ。
本書は、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)を併発する発達障害当事者のママが書いた、「発達障害・グレーゾーンの親」が、無理せず、楽しく子育てをするための一冊です。
忘れ物、時間管理、マルチタスク、感情のコントロール――著者は「できないこと」が多く、社会の中で何度もつまずいてきました。だからこそ、子どもが生まれる前は、
「子育てなんてしたくない」
「自分には向いていない」
そう思っていた一人でもあります。
それでも今、ふたりの子どもたちを不器用なりに、試行錯誤を重ねながら育て、子どもたちとまっすぐ向き合って生きています。
本書では、
・発達障害と診断されるまでの生きづらさ
・「社会不適合者」と言われた過去
・発達障害の特性を抱えたままの子育ての現実
・できないことを「根性」で克服しようとしない考え方
・環境調整と工夫で、子育てを回していく方法
・親自身の心を守るための視点
を、当事者の目線で正直に綴っています。
発達障害があると、子育ては「人一倍大変」に感じることがあります。音、予定変更、泣き声、マルチタスク、周囲の目――普通なら流せることが、心と脳をすり減らしていく。
でも、だからこそ伝えたいのです。
発達障害があっても、子育てはできます。完璧じゃなくても、子どもは育ちます。
お片付けが苦手でもいい。
うっかりしてもいい。
毎日ニコニコできなくてもいい。
疲れたら、休んでいい。
子どもにとって必要なのは、「完璧な親」ではなく、自分を大切にしながら生きている親です。
本書は、「発達障害の自分には無理だ」と思い込んでしまったあなたの心に、そっと寄り添う一冊です。