発達障害児の母が抱える「夫の無理解」という孤独 夫婦のズレを埋めるヒントとは

星野歩

3000人の発達障害の子を診察してきた星野歩先生によると、子どもの発達について悩むのは「お母さんが圧倒的に多い」のだそう。もちろん、子どもと真摯に向き合うお父さんもいますが、日々子どもとかかわる時間が短いお父さんは、子どもの状態やパートナーの不安がどうしても実感しにくいことも。

そんな夫婦が力を合わせて、ともに問題に向き合うために検討したい「ペアレント・トレーニング」とは?星野歩先生の著書よりご紹介します。

※本稿は、星野歩著『3000人の発達障害の子を診察してきた医師が教える ASD (自閉スペクトラム症) ・グレーゾーンの子どもをありのまま育てる方法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から一部抜粋、編集したものです。

母親にのしかかる大きな負担 父親にできることとは?

ここまで主に「親御さん」という表現を使っていますが、実際には子育てにおいて追いつめられるほど悩んでいるのも、発達相談に実際にやってくるのも、「お母さん」が圧倒的に多いのが現状です。

では、「お父さん」はどうしているのでしょうか?

初診から夫婦で一緒に来院し、仲良く毎回受診を続けてくださるご家族もある一方で、仕事で忙しくて子育てに全然かかわっていない、朝晩しか接していないのでわが子の状況がわからない、それゆえ、お母さんが抱えているしんどさや、わが子がちょっと変わっている部分に気づかない、というお父さんも少なからずいらっしゃいます。

また、とにかく頭ごなしに叱りつけて言うことを聞かせるというタイプのお父さんも少なくありません。そのような父親の無理解・無関心がお母さんのしんどさを増やしている側面もあります。

夫婦間で、わが子に関する見解に違いが見られることもよくあるようです。お母さんは「うちの子、ほかの子とちょっと違う気がするから専門家に診てもらいたい」と思っているのに、お父さんは「そんな必要はない! どこもおかしくないんだ!」と受診に反対するケースです。その逆のパターンも、もちろんあります。

すべてのケースではありませんが、親御さん自身に、ASD 傾向が見られることもあります。その場合、ASD の特性であるこだわりの強さ・頑固さが発揮され、ますます配偶者の意見を聞き入れません。

また、自分の意見に固執するあまり、子どもの特性を理解できず、ひたすらわが子を怒鳴りまくって、子どもの自己肯定感がますます下がっていくという悲しい状況もしばしば見受けられます。

本来、夫婦で力を合わせて問題に対処したい場面なのに、わが子に関する意見の相違による衝突が増え、夫婦仲が悪化し、問題解決へと進まないことも多いのです。

ペアレント・トレーニングで親子・夫婦関係、日常生活、仕事、すべてが好転する

そこで有効なのが「ペアレント・トレーニング」です。ペアレント・トレーニングとは、親御さんへのプログラムで、医師・心理士などの専門スタッフが子どもへの上手な接し方をお伝えするものです。

ASD の特性をしっかり理解したうえで、お子さんが受け入れやすい声のかけ方や指示の出し方、親御さん自身の心の保ち方など、親も子も心がラクになれるトレーニングです。

通常、お子さんを診察に連れてきたお母さんに向けて実施することが多いのですが、お子さんの特性に拒否感を覚えているお父さんに行うと、大きな効果を発揮します。

トレーニングはそれぞれにスタッフがつき、親子別室で行います。「お子さんも隣の部
屋でがんばってお勉強していますから、お父さんも一緒に学びましょう」と伝え、怒鳴ら
ずおだやかに声をかけることや、具体的な指示を出すことなど、さまざまなシーンを想定してお子さんの特性に合わせた接し方を少しずつ学んでいきます。

毎回、家で実践してもらうような宿題も出します。特にASD 傾向のあるお父さんはまじめでタスクをきっちりこなす方が多く、最初は乗り気でなくても、学んだことをしっかり習得し、宿題もきっちり行います。ある意味で、非常に優秀な生徒さんなのです。今まで理解の足りなかったお父さんがわが子に適した接し方を習得することで、その後の対応が激変します。お父さんは無用なストレスを感じずにすみ、お子さんはのびのびと暮らすことができるようになるのです。普段、お子さんとの接点が少ないお父さんが子どもに向き合う姿勢は、実はきわめて重要です。

さらに、うれしい副産物もあります。このトレーニングには、夫婦仲がよくなる効果もあるのです。

トレーニングでは、「奥さんに『うん』とか『ああ』とかだけでなくて、『なるほど、そ
うだったんだ』『大変だったね』『ありがとう』といった声かけをしてみてください」とお伝えしています。

まじめで律儀なお父さんはそのような細かいことを繰り返していくにつれて、だんだんとコミュニケーションレベルが上がり、「妻の誕生日が近いのでプレゼントを考えたほうがいいですよね」と言うレベルへと発展していきます。

やがて1年が経つ頃には、夫婦間のコミュニケーションが密になり、とても仲がよくなっているというケースが多く見受けられるのです。喜ばしいことに、夫婦の関係がよくなると、親子の関係も必ずよくなります。

発達障害(ASD)のお子さんに対する接し方や教育方針が異なるせいで関係が悪化し、離婚に至るようなご夫婦もいらっしゃいますが、そこまで悪化する前にご夫婦ともにぜひこのペアレント・トレーニングを受けていただきたいと思います。

もちろん、ASD 傾向があるのはお父さんに限りません。ASD 傾向があるお母さんも多くいらっしゃいます。

お父さんであれ、お母さんであれ、トレーニングを受けていく過程で、ご自身のASD傾向に気づき、「私もそうだったんですね」と納得する親御さんも大勢います。「今まで生活上や人間関係で苦労していたけれど、その対処法がわかった!」と衝撃を受けるとともに心がラクになるそうです。

つまり、ASD(自閉スペクトラム症)の特性を知ることで、親御さん自身が今までままならなかったことがうまくこなせるようになるわけです。

たとえば、苦手だった感情のコントロールやスケジュール管理、優先順位づけができるようになります。すると、以前よりずっとラクに子どもに対処できるようになるのです(トレーニングを通じて自分自身を理解することができるのも、このトレーニングのメリットです)。

ペアレント・トレーニングは、発達障害にかかわる医療機関や児童発達支援事業所、放課後等デイサービス、また都道府県の発達障害者支援センターのような公的機関でも実施されています。親と子も、そして夫婦までも関係がよくなるため、おすすめです。

POINT:近くで「ペアレント・トレーニング」を受講できるところはないか、探してみましょう。

3000人の発達障害の子を診察してきた医師が教える ASD (自閉スペクトラム症) ・グレーゾーンの子どもをありのまま育てる方法

星野歩著『3000人の発達障害の子を診察してきた医師が教える ASD (自閉スペクトラム症) ・グレーゾーンの子どもをありのまま育てる方法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

いま、ASD(自閉スペクトラム症)と診断される子どもは約100人に3人にのぼるといわれています。グレーゾーンの子どもも含めると、もっと多いでしょう。
わが子の個性をどう受け止め、どう伸ばしていけばいいのか。
多くの方が、正解のない問いに対して一人で悩み、疲弊しています。

本書の著者は、20年以上にわたり、のべ3000人の発達障害児の診療に携わってきた医師・星野歩さん。
著者自身もかつては、幼少期にASD(自閉スペクトラム症)と診断された長男の子育てに悩み、葛藤した一人の母親でした。

医師としての診察と、母としての苦悩。
その両方を経験した著者だからこそたどり着いたのは、「親のマインドセット(捉え方)を変えれば、子どもは特性を伸ばし、親子ともにラクに生きられるようになる」ということ。
本書では、著者が大切にしてきた、ありのままの特性を活かすための具体的な接し方を、医師の視点でわかりやすく解説します。