昔ばなしは「スマホ育児」の解毒剤? “寝る前5分”で子どもが変わる

沼賀美奈子

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夕飯の支度や掃除、洗濯、終わらない家事….。子育て中、「ちょっとだけ動画を見ていて」とスマホを渡したことがある親御さんは少なくないでしょう。静かになってホッとする一方で、「見せすぎでは?」「脳に悪影響はない?」と、不安になることもあるかもしれません。

刺激の強いショート動画に慣れた子どもたちは、“待つこと”や“想像すること”が苦手になりやすいともいわれています。そんな時代だからこそ取り入れたいのが、「昔ばなしの読み聞かせ」です。昔ばなし研究者の沼賀美奈子さんが子どもの心と脳にもたらす効果や、スマホ育児との上手な付き合い方についてご紹介します。

※本稿は、沼賀美奈子 (著)『本当の頭のよさが育つ昔ばなしの魔法』(青春出版社)より一部抜粋、編集したものです。

昔ばなしの読み聞かせは、スマホ育児の解毒剤

夕方になれば、コンロの火を気にしながら、足元でぐずる下の子をあやし、上の子には「ごめん、それは今できないから、ちょっとだけこれ見ててね」とスマホを手渡す。

画面に釘付けになって静かになった上の子を見てホッとすると同時に、胸の奥にはチクッとした痛みが走ります。

無表情のまま、短い動画を指でスクロールし続けるわが子の姿を見る。そのたびに「こんなに見せ続けて、脳に悪い影響はないだろうか」「考える力が奪われているんじゃないか」私も、そんな得体の知れない不安に襲われる毎日を送っていました。

子育て中、どうしても手が離せないときにスマホやタブレットに頼ることは、現代の親にとって避けられない現実です。

長時間にわたる動画視聴、特にショート動画の連続視聴については、睡眠や注意力、感情調整などへの影響が指摘されています。

最大の問題は、ショート動画特有の刺激の強さや完結までの速さです。次々と切り替わる映像。強い効果音。すぐにオチがつく構成。

こうした刺激に慣れすぎると、子どもは待つことや、何もない時間に耐えることが、だんだん苦手になります。待たずに済む快感に慣れると、脳は受け身になりやすいのです。なぜなら、目の前の映像を、ただ受け入れるだけで楽だから。

また、自分で文脈を補完したり、次の展開を想像したりする必要がありません。その結果、子どもたちは、刺激のない時間や、答えが出るまでの間に耐えられなくなっています。思考力や想像力が育つのは、空白の時間なのに。

一方で、親子での読み聞かせには、子どもの言葉や想像力を育てるだけでなく、親子の間に安心できるやりとりを回復させる働きがあり、スマホ育児の影響をやわらげる可能性も示され始めています。

そして、これらは私が長年、昔ばなしの読み聞かせの活動の中で実感してきたことでもあります。

寝る前のほんの数分でも、誰かの声で昔ばなしを聞く時間があれば、子どもは少しずつ落ち着きを取り戻していく。親子の空気まで、変わっていく。私はその場面を、何度も見てきました。

子どもの頭と心にもたらす3つのメリット

動画漬けの脳に、昔ばなしが効く理由はシンプルです。昔ばなしは、スマホが奪うものを、ちょうどそのまま取り戻してくれます。

自分で想像する脳を取り戻す

スマホの動画は、映像も音もそろった状態で届けられます。子どもはただ受け取るだけで楽しめます。

でも昔ばなしは違います。基本的に、耳から入る声を頼りに、自分の頭の中で情景を立ち上げる必要があります。やまんばの顔も、森の暗さも、お城も、自分で思い描かなければなりません。

これは、脳にとってはかなり能動的な作業が必要になります。絵本にしても1枚のイラストを頭の中で動かし、補完しなければなりません。こうした時間が、受け身になりがちな日常のバランスを取り戻します。

私は、子どもたちが昔ばなしを聞いているうちに、ぼんやりしていた目が輝きだし、自分で世界をつくり始める瞬間を、何度も見てきました。

待てる心を育てる

ショート動画の快感は、速さにあります。3秒でオチが来る。次もすぐ来る。待たなくていい。

その快感に慣れた脳は、少しでも間があくと耐えられなくなっていきます。一方、昔ばなしには、間があります。

「さあ、どうなるだろう?」という答えが来るまでのドキドキ。そのちゅうぶらりんの時間こそが脳に余白を与え、想像力の土壌になります。

すぐに答えが出ない時間を味わうことが、落ち着いて耳を澄ませる力や、先を思い描く力につながっていく。私は、この待てる心こそが、考える力の土台になると感じています。

ぬくもりが興奮をしずめる

動画が与える刺激は、強くて、速くて、次を求めやすいものです。それに対して、身近な人の声で聞く昔ばなしには、まったく別の安心感があります。

近い距離で声を聞き、同じ時間と空間を共有し、共に物語に浸る。その体験は、子どもの緊張をゆるめ、語り手とのつながりを感じさせます。

私が見てきた保育の現場でも、昔ばなしを読むと、荒れていた子の緊張が少しずつほぐれていくことがよくありました。

刺激の強い一日の終わりに、読み聞かせの時間があることが、子どもを心の安全地帯へ連れ戻してくれます。

スマホを完全に手放すことは、現実的ではありません。だから、一日の終わりにほんの少しだけ、昔ばなしを読み聞かせてほしい。

寝る前に5分の「ちょい足し」昔ばなし。それだけで、子どもの毎日に、考える時間、待つ時間、安心する時間が、少しずつ戻ってきます。


沼賀美奈子著『本当の頭のよさが育つ昔ばなしの魔法』(青春出版社)

超AI時代を生きていく子どもたちに必要な力は、実は「昔ばなし」で育てられます。

昔ばなしの読み聞かせで、AIと共に生きていくうえで必要な「折れない力・読み解く力・考えぬく力・生み出す力・つながる力」を一気に伸ばすことができるのです。

たった5分の昔ばなしの読み聞かせが、なぜ子どもの力を伸ばすのか――。その秘密とより効果的な読み聞かせの方法を、30年の昔話研究をもとにお伝えします。