勝てない経験も子どもの力になる? 大学バレー日本一の監督が語る「スポーツで育つ力」

川合俊一(監修), 山城稔(著)

スポーツをする子どもたちにとって大切なことは、技術を身につけることだけではありません。

大学バレー界の名将として知られる早稲田大学男子バレーボール部監督の松井泰二さんは、バレーで大切なのは、仲間を理解し、いい状況をつくって次の人につなぐ力だと話します。チームに入団したばかりの小学3年生の息子を持つ父親も、松井さんの言葉から、子どもの成長に必要な力について考えます。

大学バレーの頂点を知る指導者が語る、小学生の時期に育てたい力とは? 休日は小学生男子バレーの指導を行うライターの山城稔さんによるインタビューを、書籍『子どもがバレーボールを始めたら読む本』より抜粋してお届けします。


※本稿は、『子どもがバレーボールを始めたら読む本<11人の賢者に聞いた100の習慣>』(川合俊一(監修), 山城稔(著)/ベースボール・マガジン社)から一部抜粋・編集したものです。

小学生バレーでは何を得たらいいのか?

筆者:大学のトップチームの監督から見て、小学生バレーの段階で意識的に身につけておいたほうがいいと思うことって、ありますか?

松井:バレーはやっぱり、仲間を理解しやすいスポーツだと思うんですね。相手に邪魔されずに、自分たちで一つのものをつくり上げることができますから。僕はそれを、「攻撃までつくり上げる」と表現しています。攻撃までつくり上げるには、仲間を理解することが必要不可欠なんです。

筆者:大学のトップチームでも、やはりそれは大事なんですか?

松井:はい、ものすごく大事ですね。これはね、コロナ禍の後で、改めて気づいたんですよ。大学生も意外と抜けてるなと。そこで、もう一回、大学生にも再認識させなきゃいけないと思ったんです。

父親:コロナ禍で人との接触が減ったからですか?

松井:原因はコロナだけではありません。そもそも、人との接し方がうまくない学生が多いんです。とくに大人との関係づくりは本当に上手くないんですよ(笑)。バレーって「つなぐスポーツ」って言われるでしょ。でもそれだけでは足りません。「いい状況をつくって次の人につなぐスポーツ」なんです。

筆者:確かに! “いい状況をつくって”ということが大事なんですね。

松井:はい。そうやって仲間がていねいにつないでくれたボールを、3番目の選手は得点にする。全員がそれぞれ責任を負って相手に向かっていくスポーツなんです。その意味ではとても日本的です。しかも、体の大小に関わらず、攻撃までは完成させられるスポーツなんですよ。

筆者:なるほど。だけど、仲間への理解が足りないと、それが不完全になる?

松井:はい。どこかで崩れてしまうんです。

筆者:学生には、どんなふうに対処をされたんですか?

松井:いろいろな方法があります。2人一組でゲームをさせたりね。練習でも、例えば通常、パス練習は1対1でやるんですが、それを2人一組にして、ネットを挟んで得点制でやらせたりするんです。たったこれだけでも、パスのタイミングとか攻撃の方法を考えたりして、コミュニケーションが自然に生まれるんです。ネットを挟んで得点を取るという意識づけもできる。そんなことを意識的にやらせてますね。

利他の精神がないとバレーは高まっていかない

筆者:なんだか意外です。トップチームの大学生でも、そういう基礎的と言うか、コミュニケーションを高めるような練習を意識的にやったりするんですね。

松井:はい(笑)。あとはミーティングもやはり多く行います。「課題解決」とか「目的共有」とか「新しいアイデアを出す」とか、いろんな目的のミーティングがありますが、僕は「仲間の良いところを見つける」というのをよくやります。

父親:とても失礼な言い方ですけど、小学生みたいというか……。

松井:そうなんです(笑)。僕はね、一般入試で早稲田に入ったんです。しかも身長は170㎝にも満たない。当時の大学の監督は私にほとんど話もしてくれないんですよ(笑)。もう悔しくてね。「監督は僕の良さを何もわかってない。バレーは人のいい部分を集めて勝負するのに、良さを引き出せていない」と思ったんですよ。

筆者:なるほど。良いところを見つけ、それを集めれば、さらに強くなると?

松井:そうです。多くのチームでは「あいつは小さいから」とか「ミスをしたから」と悪い部分に目がいきますよね。だけど、そういう環境だと、良さが出てきません。良いものを引き出すには、「良い部分を見よう」とする姿勢が必要なんです。いわゆる“利他の精神”っていうのかな。

筆者:わかる気がします。やっぱりトップ選手ばかりですからね。“利他”というよりは自分が持ち上げられることに慣れていると言うか……。

松井:おっしゃる通りです。成功体験を積み重ねてきた学生が多いので、僕の中では「大学で少し傷をつけてあげなきゃいけないかな」とも思っているんです。大きな傷だと壊れてしまいますが、小さな傷をつけながら、自分を振り返っていく。そういう経験がないと、伸びていかないんじゃないかと。

筆者:自分を振り返ることは、相手を理解することにもつながりますよね?

松井:その通りです。だけど、自分のことを把握できていない学生も多いんです。例えば就活のときに、学生は「推薦状を書いてほしい」って言ってくるんですね。僕は「自分のいいところを書いてみて」と言うんですが、3つくらいしか書けない学生もいる(笑)。「君は良いところがもっといっぱいあるだろう」と言うんですけどね。

父親:最近の子っぽいですね(笑)。

松井:ただ、僕と2人で話すと、彼らは意外と自分のことをわかってるんですよ。だけどチームの中ではそれを出さない。変に空気を読みすぎちゃって、動けなくなってるような部分もあるんでしょうね。

バーチャルな時代だからリアルな体験が重要

筆者:今どきの若者は空気を読みすぎますよね。すでに小学生から始まってます。

松井:SNSの影響は大きいと思いますよ。情報が溢れていますが、学生は知識が少ないので偽物の情報にも誘導されやすい。で、何を信じていいかわからなくなっている。バーチャルな時代だから、自分をさらけ出すのが怖くなっているのかもしれませんね。

筆者:なるほど。だけど、スポーツってリアルじゃないですか。勝ち負けがはっきりしています。そのリアルな世界を子どものときに経験するのは大事なことですよね。

松井:おっしゃる通りです。自らした経験は何にも勝ると、僕は思っています。成功体験も失敗体験も、必ず力になっていきますから。人生は判断の連続です。判断の基準の多くは経験から生まれるんです。とくに失敗の経験は、自分の哲学や生き方を決めていくうえで、必要不可欠なものだと思いますね。

父親:わかります。成功体験ばかりで社会に出てしまうと、簡単に挫折してしまいかねません。社会では挫折や失敗はつきものですから。

松井:本当、そうですよね。例えば、新入社員と2年目の先輩の違いって、経験の差だと思うんですよ。新入社員は経験がなく見通しが立たないので、全力で走って疲れ果てる。でも2年目からは1年目の経験があるので「ここは手を抜いてもいい」とか「これが終わればちょっと休める」という見通しが立つ。それが経験の差だと僕は思うんです。

筆者:社会人になると大きな失敗はできません。だから小さなミスは学生のときに経験したほうがいい。スポーツは失敗の経験を積むには最適だと思います。

子どもがバレーボールを始めたら読む本<11人の賢者に聞いた100の習慣>

子どもがバレーボールを始めたら読む本<11人の賢者に聞いた100の習慣>』(川合俊一(監修), 山城稔(著)/ベースボール・マガジン社)

バレーボールを始めた小学生、中学生の親御さんが、子どもたちを支えるにあたり知りたいこと、疑問に思っていることを、「賢者」たちに尋ねていく一冊。
体のこと、食事のこと、用具のことなどテーマ別に、その道のプロフェッショナルから深い知識を得ていく本です。
ライターの山城稔さんが川合俊一さん監修の下、11人の「賢者」のところへ行き、親御さんの迷いや悩みを解決するヒントを探ります。
親しみやすい会話文で、大事なことがしっかり理解できます。