「冷やし中華」をシチュウだと思い込む4歳児 英語よりも日本語がむずかしい理由は?【ゆる英語子育て②】

大井ミサコ

アメリカ人の夫、4人の子どもたちと日本で暮らすライターの大井ミサコさん。
バイリンガルの子どもたちとの日常のなかで、ときに笑ってしまうような言葉の勘違いが生まれます。

英語での子育てを実践する中で見えてきた、英語と日本語それぞれの単語の「覚えやすさ」と「むずかしさ」とは?

単語の暗記は、英語より日本語の方が難しい?

まだ残暑厳しい毎日。暑さでダレた子どもたちの気分を盛り上げるべく我が家で作るのが、冷やし中華だ。世間では“お手軽料理”にカテゴライズされているかもしれないけれど、麵のほかに最低でも3種類は具材がないと様にならないこの一品、食べ盛りの子どもが4人いる我が家では“時間と気持ちに余裕がないと作らないご褒美メニュー”に位置している。

その日も、冷やし中華日和だった。何も予定がない夏休み終盤。暇を持て余した子どもたちが、お決まりの質問を投げてくる。「今日のおひる、なーに?」わたしはいっちょやったるか、と重い腰を上げて宣言した。「今日は、冷やし中華にします!」「やった~!!」予想通り、上の子たち(9歳、6歳)は歓声を上げる。

一方、3番目の子(4歳)は浮かない顔だ。
「○○くん、やだ。あついもん」
「なんで? さっぱりして、冷たくて、暑いときにぴったりだよ」
「やだもん。シチュウたべたら、あつくなるでしょ!」
なんと4歳児、冷やし中華を「ひや・しちゅう・か」と区切り、シチュウの一種だと思い込んでいたのだ。

かように、幼い子どもにとって音の羅列から正しく単語を抽出するのは難しいものである。我々大人は「ひやし、ちゅうか」なんてわざわざ切り分けて話すことはないので、子どもは音の塊としての単語を自分の力で見つけなければならない。そして単語抽出作業だけを見れば、日本語は非常に難しい言語だと思う。我が家では日本語と英語を両方使っているが、英語と比べて日本語の単語抽出は格段に難しい。

難解語も予想できる英語の「接頭辞」

というのも英語は、「これ系の単語だったら、この音から始まりますよ」あるいは「こんな音で終わりますよ」というルールが日本語よりも明確にあるからだ。単語の始まりに付くものは接頭辞(prefix)、終わりに付くものは接尾辞(suffix)という。子どもとの生活でよく使う接頭辞は、たとえばこんなものがある。

◎ dis-(意味:~でない)
例:dislike(好きではない→嫌い)、disagree(賛成ではない→反対)

◎ mis-(意味:誤った)
例:misunderstand(誤解する)、mislead(誤解させる)

◎ sub-(意味:下へ)
例:subtraction(引き算)、submarine(潜水艦)

接頭辞で始まる単語は、子どもにとっては難解すぎる語(big word)になることも多い。でも接頭辞があるからこそ意味をふわっと推察できるし、ゆえになんとなく使うこともできる。我が家の子どもたちも、否定の意味の接頭辞「un-」を付けて「今日はun-Sundayだから早起きしなきゃ」とか、質や大きさが超越しているという意味の接頭辞「super-」を付けて「今の私はsuper-meだからなんでもできる」とか、造語で言葉遊びをしている。

アメリカでは範囲が広い「接尾辞」

今度は接尾辞で終わる子育て頻出語をいくつか挙げてみよう。

◎ -ful(意味:いっぱいの)
例:joyful(楽しい、うれしい)、playful(ふざけた、はしゃいだ)

◎ -less(意味:足りない、ない)
例:fearless(怖いもの知らずの)、needless(無用の)

◎ -ish(意味:~っぽい、~的)
例:reddish(赤っぽい)、six-ish(6時頃)

また日本人としては、「これも接尾辞なの?」と意外に感じるものもある。たとえば動名詞を作る「-ing」、それから比較級の「-er」と最上級の「-est」、そして職業や動作主を表す「-er」も、アメリカの小学校では接尾辞の一種として教えることが多い。

典型的日本の英語教育を受けたわたしは、中学校で不定詞(to V)と動名詞(Ving)をセットで習い、なんだか腑に落ちず苦手意識を持ってしまった覚えがある。これがアメリカ式に習っていたらどうだったろうか。「動詞の後ろに-ingが付けば、『~している』と現在の動作を表すことになるし、-erが付けば、『~する人』という意味になるんですよ」と教われば、そういうものかとすんなり受け入れられたかもしれない。

「蚊がいる」が「かががいる」になる子どもたち

そんなわけで、単語の構成がある程度体系化している英語のほうが、日本語よりも単語を抽出しやすく記憶もしやすいと思うのだが、いかがだろうか。

いや待て、日本語だって「が」「を」「に」「て」などの格助詞によって単語が区切られるではないか、むしろ日本語の方が音の塊を抽出するのはラクなんじゃないのか? という意見もあるだろう。確かに単語と単語を電車の連結器のようにつなげ、意味関係を示す格助詞は、日本語の優れた機能だ。

でも格助詞のデメリットは、単語と同じ比重でアクセントが置かれ、同じ比重で発音される点である。英語だと接辞よりも語幹のほうが重要であるゆえ、語幹のほうにアクセントが置かれることがほとんどだ。でも日本語の格助詞はそうではない。結果、「蚊がいる」という文を「かががいる」としたり、「コンビニへ行く」を「コンビへ行く」とする、子ども特有の可愛らしい言い間違いが発生する。文から単語を抽出する際、単語と格助詞を区別するのが難しいゆえに「蚊」を「かが」、「コンビニ」を「コンビ」と間違えて推察してしまうのだろう。

以上の理由から、幼い子どもが語彙を習得するのは日本語のほうが英語よりも難しいのではないかと個人的には思っている。さらに、これだけ難しい日本語ができていれば英単語を覚えるのなんて簡単じゃないか、とも思うのだが、我が子たちいわく、それとこれとは別らしい。少なくとも、英語は接頭辞と接尾辞から入れば丸暗記するよりも効率よく覚えられることは間違いないはずだ。