「えっ、そう訳す!?」バイリンガル娘の”まさかの直訳英語”で気づいたこと【ゆる英語子育て①】

大井ミサコ
2026.08.06 16:25 2026.08.10 11:50

女の子の後ろ姿

アメリカ人の夫と、4人の子どもたちと暮らす、ライターの大井ミサコさん。
日本で生活しながら、日々「英語での子育て」を実践しています。

4人を同じように育てているつもりでも、子どもたちの英語への反応はさまざま。得意な子もいれば、苦手な子もいて、まさに四者四様なのだそう。

大井さん一家のどたばたな試行錯誤の日々から、「英語子育て」のヒントを探る連載をお届けします。

「ごはんですよ」は英語でなんという?

お米/ごはん

午後6時。子育て家庭にとって最も忙しい時間帯だろう。我が家も例外ではなく、吹きこぼれそうなパスタ鍋の前を離れることができない私は、当時3歳の長女に頼んだ。「ちょっとダディーに、『ごはんですよ』って言ってきてくれる?」

長女は、在宅勤務をしている父親の部屋へテケテケと駆けていくと、ありったけの声で叫んだ。

「Daddy, it’s rice!!!」

アメリカ人の父親と日本人の母親をもち、英語と日本語の2言語を聞いて育った娘は、いわゆるバイリンガルだ。両言語とも上手に使いこなす。それでも……というより、だからこそ、バイリンガルっ子ならではの間違いを時々おかす。日本語の「ごはんですよ」を文脈通りの英語にするなら「Dinner is ready」や「It’s dinner time」だけど、それを「It’s rice」と直訳したのである。その日の夕食はスパゲッティだったのに。

他にも、信号の青を「みどり」と言ってみたり(英語で「わたれ」の色はgreen)、難しいことを「固い」と言ってみたり(英語ではどちらもhard)と、バイリンガルっ子ならではの翻訳間違いは挙げたらきりがない。

ごちゃまぜ言葉も特徴的だ。娘はアメリカ人の父親に話すときは基本的に英語を使うが、自分の語彙にない言葉、あるいはうまい英訳が見つからない言葉は、日本語のまま使う。たとえば「I had 図書委員会 after school」とか、「Today’s homework is doing 夏休みの計画表」とか。早期英語教育反対派の人には、そんな出鱈目な言葉を使って、と怒られてしまいそうである。

親を悩ますダブルリミテッド問題

本を読む女の子

お子さんに英語を教えようかなと検討している、あるいはすでに実践している方はご存じだろうが、子どもの英語教育について調べると、必ずといっていいほど「ダブルリミテッド」の情報にぶつかる。かつてセミリンガルとも呼ばれていた、どちらの言語も不十分な状態の多言語話者を指す用語だ。幼い子どもにバイリンガル教育を行うと母語も外国語も中途半端になる、だから外国語教育は母語の能力が十分に育ってから行うべきだという主張で、このダブルリミテッド問題を前に英語子育てに二の足を踏んでいる人も多いかもしれない。

でも、最近は論調が変わってきた。ごちゃまぜ言葉など、以前は典型的な言語能力不足の現れとされていたが、今は「コードスイッチング(CS)」と呼ばれ、「高度な認知機能に支えられたバイリンガル特有の言語能力」として評価されるようになっている※。

たとえば先に例で挙げた「放課後に図書委員会があった」という文、自然な英語では「There was a library committee meeting after school」のようになるが、これだと委員会活動の内容をうまく表せない。日本の図書委員会は、図書カードにハンコを押したり貸出冊数ランキングを作ったりと「meeting」以外の作業が多く、私の知る限りアメリカの小学校では、日本のような活動は行わない。似た概念がない単語は、そのまま「図書委員会」と原語を使ったほうがしっくりくる。

2番目の例文「夏休みの計画表をする」のほうは、英語では「plan summer break」などと表す。でも動詞とその他の品詞がセットになったコロケーションは、知らなければパッと出てこない。だから娘は「do 夏休みの計画表」と表したのだが、英語の語彙がなくてけしからんというより、日本語の機能を使いこなした結果じゃないか、と感じ入る。

なぜなら日本語は、漢語・カタカナ語に「する」を付けるとほぼなんでも動詞にすることができる言語だからだ。昔ながらの「計画する」「リラックスする」だけでなく、「朝活する」「ログインする」、はたまた「積読する」「チルする」と、「する」さえ付ければどんどん新たな動詞が生み出せる。単語が思い浮かばなかったらとりあえず「する(do)」付けとこ、という戦略に我が子ながら認知能力の高さを感じずにはいられない。

第一、娘はコードスイッチングを家庭内でしか使わない。英語しか解さないアメリカの家族には、「I had 図書委員会」とは絶対に言わず、代わりに「I went to the school library after school」とかなんとか、厳密には違う意味でも、似たニュアンスの回避表現を生み出す。「アメリカの家族は日本語がわからない」「でも自分の父親は多少日本語がわかるから、細かい単語は入れ換えてOK」と、メタ認知ができているのだ。

面白くないと続かない

草原を歩く親子

そんなわけで、今のところ我が子は認知能力的に問題なさそうだと判断し、日本語と同じように英語も使用する日々である。

……とあれこれ理屈を並べてみたが、英語子育てをしているいちばんの理由は、なんといっても「面白いから」だ。だって、「ごはんですよ」を「it’s rice」って訳すなんて、我々大人なら考えられない。そんな子どもの言い間違いによって、食事全般を内包する白米という日本語の偉大さを再認識できるし、そういえば英語には白米に相当する食べ物は見当たらないな、と文化比較もできる(英語で食事を表すmealはコーンミールやオートミールの「meal」かと思いきや、「決まった時間」を表す古英語が語源である。この雑学は英語母語話者でも知らない人が多いので、教えてあげたら驚かれるかもしれない)。子どもと二言語間を行き来する日々は、驚きと学びの連続なのだ。

子どもと英語を学ぶには、親の忍耐力が必要とされる。というのも、日本に暮らしていたら英語なんて話せなくても生きていけるし、他の習い事や友だち付き合いも忙しいし、「早期英語教育はよくないって聞いたけど?」なんて外野の評価にもさらされる。それでも続けるなら、面白くないとやってられない。学ぶ子ども自身もそうだし、支える親側も面白くないと続かない。

そんな気持ちで、我が家では厳格さより面白さを優先し、日々ゆるゆると英語を使っている。我が家の家族構成をお伝えすると、万年日本語勉強中のアメリカ人の父、日本生まれ日本育ちの母(私)、9歳女子、6歳男子、3歳男子、1歳女子の6人家族。子どもが4人もいると読むほうもややこしくてひと苦労だろうけど、サンプルだけは豊富にあるのでそれは強みかなと思う。我が家の英語育児実践を、一緒に見守っていただければとてもうれしい。

※:佐藤有里「バイリンガル児のコードスイッチングは危惧されるべきか?」(2022)
https://bilingualscience.com/introduction/2022071901/

 

 

大井ミサコ

大井ミサコ

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1986年長野県生まれ。大阪大学文学部卒業(専攻は英語学)。書籍編集者を経て、現在はライター・翻訳業に従事。夫と4人の子どもと共に長野県在住。