AIに奪われる「読み解く力」…東大生の母が昔ばなしを勧める理由

沼賀美奈子

AIがすぐに答えを出してくれる今、子どもたちは「全体の流れをつかむ力」や、「物事の構造を読み解く力」が弱くなっているともいわれています。

「本当に頭のいい子は、バラバラの知識を丸暗記しているわけではありません。『どういう流れなのか?』を、物語として理解しているのです」と語るのは、昔ばなし研究者で3児の母でもある沼賀美奈子さん。

長女は現役で東京大学に合格し、長男も難関中学に進学。その子育ての秘訣をご紹介します。

※本稿は、沼賀美奈子 (著)『本当の頭のよさが育つ昔ばなしの魔法』(青春出版社)より一部抜粋、編集したものです。

嘘やノイズに巻き込まれない

子どもが宿題のプリントを前に「わかんない!」と鉛筆を投げる。親もイライラして「ちゃんと読みなさい!」 と怒鳴ってしまう。

よくある光景です。これは子どもの頭が悪いわけでも、性格が短気なわけでもありません。私はこれを「思考の近視」と呼んでいます。

現代は、思考が近視になりやすい環境です。スマホやショート動画は、刺激が強く、目の前の一点に注目させるようにできています。

一点しか見えない癖がつくと、全体像が見えません。だから、わからない問題に出合うと「もう全部ムリ!」と固まる。予定が少し崩れただけで「終わった~」とパニックになる。行き詰まりの正体は、思考の近視。

この状態を直すために必要なのが抽象化力です。抽象化力があれば、鳥のように高い場所から全体を眺めて、「今、自分は全体のどこにいるのか?」という地図を描くことができます。

具体も抽象も得意な子になるわけ

抽象化力を育てるのに、昔ばなしはとてもよい素材になります。なぜなら、昔ばなしには、世界中でくり返し語られてきた共通の「型」があるからです。

抽象化力とは、細かな違いの奥にある「共通の骨組み」を見抜く力です。目の前の出来事に振り回されるのではなく、その奥にある流れや形を見る力、と言ってもいいでしょう。

昔ばなしを何度も聞いていると、子どもは知らず知らずのうちに、
「この話も、前に聞いた話とどこか似ている」
「細かいところは違うけど、あの話と同じだ」
と感じ取るようになります。

そうやって、全体の形をつかむ癖が自然に育っていく。それが、物事の構造を読み解き、迷子にならないための地図をつくる力です。

世界で共通して語られてきた型の代表が、「行って、帰る」という型です。「欠乏がある →旅に出る→試練を乗り越える→帰ってくる」

たとえば、日本の昔ばなし「一寸法師」も、この型でできています。小さな主人公が家を出て、都へ向かい、鬼と戦い、自分の運命を切り拓き、家に帰還する。

グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」も同じです。親に捨てられるという欠乏から始まり、森で迷い、お菓子の家で魔女につかまるという大きな試練にあい、知恵を働かせて生き延び、最後は帰ってくる。

国も時代も違うのに、子どもが夢中になる物語の骨組みは、驚くほどよく似ています。

この黄金パターンをくり返し耳にすることで、子どもの頭の中には、物語の型が丸ごとインストールされます。

昔ばなしを聞き慣れている子が、初めて聞く話でも、
「あ、もうすぐ大変なことになるよ」
「ここが山場だね」
と先回りできるのは、予知能力があるからではありません。

頭の中に物語の地図が入っているからです。
「今は導入だな」
「次は試練が来るはずだ」
この型を通して全体を見る癖こそが、勉強や人生で迷子にならないための羅針盤になります。

学力の高い子だけが知っていること

この読み解く力は、学力に直結します。国語の長文読解でも、地図を持っている子は、「ここは具体例の話だ」「ここから結論に戻るな」と、迷わずに読み進めます。

わが家でも、この力が受験勉強で大きな武器になりました。長女と長男は、いわゆる御三家と呼ばれる難関中学に合格しましたが、彼らが口をそろえて言っていたのは、勉強は、暗記じゃなくて物語だということでした。

たとえば、中学受験の社会科で、年号や人物名をひたすら暗記するのは、子どもにとって苦行です。しかし、昔ばなしで筋を追う力がついている子は、歴史を一つの長い物語として捉えることができます。

「この人がこういう“原因“をつくったから、不満を持って反乱という“結果“が起きたんだな」
「土地がこういう形だから、この産業が発達したんだな」

バラバラの知識を丸暗記するのではなく、「どういう流れなのか?」と構造で理解できる。すると、細かい年号を忘れても、前後の流れから答えを導けるようになります。

昔ばなしで培った物語の地図を持つ力が、膨大な暗記量を減らし、学びを楽にしてくれるのです。

東大に行く子は、昔ばなしを読んでいる

読み解く力は、さらに先の大学受験でも生きました。

長女が現役で東京大学に合格したときのことです。東大の日本史は、細かい知識よりも歴史の大きな流れを論述させる難問が出ます。

彼女はこう言いました。「江戸時代初期に出されたたくさんの法律も、『戦国の反乱の芽をつぶす』という目的で見れば、一気にまとまるんだよ。目的がわかれば、細かい条文は覚えなくても芋づる式に出てくる」

中学受験も、大学受験も、そして社会に出てからの仕事も同じです。

物事の骨組みをつかむ力さえあれば、どんなに複雑な情報に出合っても、要点をパッとつかんで自分のものにすることができます。

それは、大量の情報に溺れないための、一生モノの底力になるのです。


沼賀美奈子著『本当の頭のよさが育つ昔ばなしの魔法』(青春出版社)

超AI時代を生きていく子どもたちに必要な力は、実は「昔ばなし」で育てられます。

昔ばなしの読み聞かせで、AIと共に生きていくうえで必要な「折れない力・読み解く力・考えぬく力・生み出す力・つながる力」を一気に伸ばすことができるのです。

たった5分の昔ばなしの読み聞かせが、なぜ子どもの力を伸ばすのか――。その秘密とより効果的な読み聞かせの方法を、30年の昔話研究をもとにお伝えします。