「背を高くするために治療しよう」はNG? 思春期早発症の治療の目的と子どもへの伝え方
二次性徴が平均より2〜3年早く始まる「思春期早発症」。成長が早いこと自体は一見良いことのようにも見えますが、身長の伸びるタイミングが早く終わってしまい、最終的な身長が想定より低くなる可能性もあります。
治療を検討する際、多くの親御さんがまず気になるのは「身長がどこまで伸びるのか」という点ですが、本当に大切なことは一体何でしょうか。思春期早発症の治療の目的と考え方について、小児科医・今西洋介先生の著書をもとに解説します。
※本稿は、今西洋介著『うちの子発育が早いかなと思ったら読む本』(日東書院本社)より一部抜粋、編集したものです。
何を目的に治療するのかを考える
思春期早発症は、必ず治療しなければならないものではありません。お子さんの成長が何かおかしいと気づいたときから、あるいは病院にアクセスしたときから、「一刻も早く治療をしなければ」と焦る親御さんは少なくないですが、急いで決めなくていいですし、「治療をしない」という選択肢もあります。
治療をする、しないを決めるときに大切なのは、お子さんの意思です。医師から病状や治療のメリットやデメリットを聞き、患者本人が納得し、同意する――治療はそこからはじまります。未成年の場合、法律上は保護者の同意が必要ですが、近年の医療では、子ども自身の意思を尊重する姿勢が重視されています。
思春期早発症の治療も同じです。あとで詳しくお話ししますが、治療の中心は現在のところ、毎月1回の注射です。本人が納得していないままの治療は、憂うつな時間でしかないでしょう。年端がいかない子でも、医師や親がわかりやすく真摯に伝えれば、子どもなりに理解するものです。親が寄り添い、どうしたいかを一緒に考えることで、お子さんも安心して意思や気持ちを表明できるでしょう。
身長についての本音と現実
思春期早発症の治療をひと言で説明すると、「進行している思春期を、一時的に止める」となります。通常より早い年齢ではじまったホルモンの動きを止めるだけで、ほかの身体的、知的、精神的成長などが止まるわけではありません。そして、治療を終えると時計の針が再び動きだすように、思春期が再開します。
治療を希望する親御さんの多くが、お子さんの最終身長を気にしています。身長がまだ十分な高さに達していないうちに思春期を迎えると、どうなるでしょうか。たとえば、文部科学省が発表している「令和7年度 学校保健統計」によると、9歳男子の平均身長は134㎝です。この状態で思春期がはじまり、成長スパートがはじまった場合、年間で10㎝前後伸びる可能性がありますす。そして成長スパートが終わった後も15㎝ほど伸びると期待すると、最終身長は160㎝ほどと予測されます。これは〈低身長〉といえる数字です。
子どもの〈低身長〉とは、医学的に成長曲線の基準で、-2SD未満に位置することを指します。一方、最終身長、つまり成人後の身長については、「何㎝以下なら低身長」といった明確な医学的定義はありません。成人では単に身長が低いということよりも、「その低身長に病的な背景があるかどうか」が重視されます。たとえば、家族性の体質として説明できるか、手足や体のバランスに異常がないか、小児期からの成長障害があったか、内分泌や内臓の病気などが関係していないか、といった点を総合的に見て判断されます。
世の中には背の高い人も低い人も一定の割合で存在します。また、身長は遺伝的な影響を強く受けるため、両親が小柄であれば子どもも小柄になりやすく、その逆も同様です。すなわち、身長とは個人差が大きく、意図的にコントロールすることがむずかしい性質のものなのです。仮に子どもの基準である-2SD未満を成人に当てはめると、目安としては成人男性で160㎝以下、成人女性で148㎝以下が低身長に該当します。これはあくまで統計上の位置を示すものであり、その数値だけで医学的な問題があるとされるわけではありません。
それでも、「低身長を避けたい」が、多くの親御さんの希望であり本音です。たしかに、身長が低いことで将来的に服や靴のサイズに困る、公共設備が使いづらいなど、日常生活の不便を感じる場面はあるでしょう。スポーツをするお子さんは、低身長が不利になって楽しめなくなる可能性も考えられます。また、成人女性の低身長は将来の妊娠出産時に、妊娠高血圧症候群のリスクが高い、骨盤が狭いため経腟分娩がむずかしいなど、医学的リスクが高まる心配があります。
けれども、実際には「見た目」を気にしている親御さんが少なくないのも事実です。社会には、「身長が高いほうがよい」という空気があります。男の子でその傾向が強いですが、女の子も無縁ではありません。昨今は、ルッキズムという語が広まり、外見を重視し、それによって人を評価する考え方が問題視されています。子どもの身長について親御さんが「ルッキズムに振り回されず、ありのままの自分を大切にしてほしい」と願う一方で、「そうはいっても、できることなら……」と思ってしまうこと自体は、誰にも責められるものではありません。
ここで考えたいのは、治療の目的と、お子さんへの伝え方です。「このままだと身長が低くなってしまうよ」「背を高くするために治療をがんばろう」など、伝え方によっては、お子さんに「低身長=よくない」というメッセージになるかもしれません。後述しますが、治療をしても必ずしも身長が十分に伸びるとはかぎらないのです。治療を検討する際、いまもこれからも、お子さんが自分の身体を否定しなくて済むよう、ていねいなコミュニケーションが求められます。
早い初経への対応を考える
女の子の場合は、初経を遅らせる、すでに初経がきている場合はいったん止めておくことを目的に、治療を選択するご家庭が多いです。同時に、胸の発達を止めたいという希望も、よく聞かれます。
低年齢のお子さんが月経に対処できるかどうか、気になるのは当然です。家以外の場所で過ごすとき、生理用品をちゃんと扱えるか、もし失敗したらどうするか……心配が尽きないでしょう。小学校低学年の場合、その学年が利用するトイレにサニタリーボックスが用意されていないことも考えられます。学校に相談して設置してもらったとしても、まわりがまだ経験していない月経に、毎月ひとりで向き合うことを、お子さんがどう感じるかは別問題です。多くの学校で低学年から水泳の授業がありますし、学校によっては宿泊や入浴をともなう行事があります。そして、月経痛が出ることも考えられます。そこで、平均的な初経年齢に達するまで思春期の進行を止めておくべく、治療を選択するご家庭が多いのです。
もうひとつ、治療を検討するうえで踏まえておきたいのが、思春期早発症には急速に進むタイプと、ゆっくり進むタイプとがあることです。前者は二次性徴が短期で完成に向かうので、骨の成熟が早く、成長スパートの時期が前倒しになります。もともと身長が低く、そのうえ急速に進むタイプとなると、十分に伸びないまま最終身長に至ることもあるでしょう。女の子の場合は初経が早くなる心配もあります。逆にゆっくり進むタイプは、最終身長が低くなりにくいという研究報告があります。
思春期早発症の診断が出たら、進行のスピード、骨年齢の進み、現在の身長、さらにはお子さんの精神的な成熟具合や生活状況など、医師とともに総合的に把握したうえで、その子にとって治療が必要かどうかを考えましょう。
今西洋介著『うちの子発育が早いかなと思ったら読む本』(日東書院本社)
思春期早発症のお子さんには次のような兆候が現れます。
□小学校の低学年(6~10歳)で身長が急激に伸びる
□小学校の低学年(6~10歳)で体毛が濃くなる
□小学校の低学年(6~10歳)で胸がふくらむ
□小学校の低学年(6~10歳)で声変わりの予兆がある
□小学校の低学年(6~10歳)で初経がくる
思春期早発症は、それ自体が命に関わる病気ではありません。
しかし、思春期早発症のことを「知らない」ばかりに治療の選択肢を失ってしまうと、後々の後悔につながることもあります。
また、まれに脳腫瘍などの重大な原因が潜んでいることもあり、放置はおすすめできません。
ただ、残念なことに、せっかく受診しても「発育は個人差です」「様子を見ましょう」と言われて、治療の機会を失ってしまうこともあるようです。
本書では、お子さんと家族のための「思春期早発症」の基礎的な知識と役立つ情報をお届けします。
お子さんの“早すぎる発育”に「あれ?」と思ったら、ぜひ本書をお読みください。
