親が知らない「思春期の子の本当の姿」とは? カピバラが教えてくれる”親の思い込み”の危うさ(思春期の子との接し方は、やさしい動物たちが教えてくれる 第3回)

「うちの子、おとなしすぎて……」と心配する親御さん。長年、都立高校で教員を勤め『けなげに生きぬくいきもの図鑑』の著者、生き物に学ぶナビゲーターの岡幸子先生は、「親の知らない子どもの姿があることも忘れないで」といわれます。いったいどういうことなのでしょうか。
(連載「思春期の子との接し方は、やさしい動物たちが教えてくれる」第3回、聞き手・構成/一般社団法人Raise・宮本さおり)
「時速50km」カピバラの意外な能力

日本の動物園やSNSでも人気急上昇中の動物「カピバラ」。のんびりとした表情で温泉に浸かる姿に、思わず心がゆるむという人も多いのではないでしょうか。ところがこのカピバラは実はものすごく速く走ることができます。
カピバラはネズミやハムスターなどと同じ「げっ歯類」に属していますが、その大きさは群を抜いています。体長は約1メートルを超え、体重も最大で60キロ以上になることも。
体が大きいため、その姿からはとてもネズミとは思えないかもしれませんが、前歯が一生伸び続ける点など、確かに共通点があります。カピバラは南米を中心に、ブラジルやアルゼンチン、ベネズエラなどの熱帯地域の水辺に生息しています。川や湿地帯を好み、泳ぎが得意なのも大きな特徴です。
足には水かきがあり、まるでカモのように水中をスイスイと進むことができます。水の中では、目と鼻だけを水面に出して呼吸しながら潜ることもでき、暑さをしのぐ涼しい住まいとして水辺を選んでいます。
暑い地域の生き物のため、寒さには弱く、日本の動物園では寒さ対策としてカピバラ専用の温泉を用意している所があります。この姿の愛らしさが度々ニュースなどで流れているためカピバラ=温泉でまったり=のんびり屋さんというイメージが確立しているのではないでしょうか。
ところがこのカピバラ、普段はとてもおっとりしているのですが、敵が来ると、とたんに俊敏な姿を見せます。実はカピバラは時速50キロで走ることができるのです。
子どもにも親に見えない隠れた一面がある

カピバラの話をすると驚く方は多いのですが、この意外性はお子さんにも当てはまります。親の見ている子どもの顔だけがお子さんの姿とも限らないのです。幼い頃は親と過ごす時間も長く、子どもの姿の大半を親も見ることができます。
しかし、保育園や幼稚園、小学校、中学校と年齢が進むにつれて、親子で過ごす時間は減っていきます。親の見ているお子さんの姿はお子さんの一面にすぎないことが出てきます。親御さんの中にはその一面を切り取って「うちの子はこうだから」と決めつけてしまうことがあります。
学校説明会で出会った親子

勤めていた東京都の公立高校では毎年、学校説明会を開いていました。個別相談のブースにはいろいろな親子がやってきますが、大きく分けて2つのパターンに分かれていました。
1つは、親御さんは子どもの後ろからついていく「後方支援型」の家庭で、もう一つは親御さんが率先して前をいく「牽引型支援」の親御さんです。
個別相談ブースにくると、前者はお子さんが前面に出て質問をしてくるのですが、後者は親御さんが積極的に質問をし、子どもは隣でうなずくだけということもありました。息子さんと一緒にブースを訪れてくれたある親子はまさに後者の関係でした。
母親はこの学校の自由な校風と自主性を重んじるところに魅力を感じるので、ここを希望したいと説明、ところが「うちの子は自由にしていいと言われると困っちゃうほうなんですが、そんな子でも大丈夫でしょうか?」と言うのです。
ここまで、息子君は一言もしゃべらずにじっと母親が私に話す様子を聞いていました。私は彼の意見が聞きたいと思い、こう話しかけてみました。
「自由だと困る?」
彼は「はい」と答えてきました。
「自由だと何をしていいか分からなくなるのかな?」
「はい」
「何か中学校で友達と考えてやったことや、自分で考えてうまくいったことない?」
こうして具体的に質問をしてみると、少し考えて思い出したように
「そういえば、部活でやる運動メニューを自分たちで考えて作りました」
というのです。
「自分で考えて行動できたことあるじゃな〜い!」
そう伝えると、彼は初めて気がついたかのような顔で
「ありますね」と笑顔になってくれました。
親の思い込みが子どもに与える影響

日頃から親に「この子は自由と言われると困っちゃう子」「自分で考えて動くことができない子」だと言われていると、いつしか子どもは自分のことを「そういう子」だと思い込むようになることがあります。
このお子さんの場合、自由が困るのではなくて、自由にさせてもらえないから自分で考えることをやめてしまっただけかもしれません。自分で考えて動くのに時間がかかる子もいます。のんびり屋に見えるその姿は親からするとカピバラのように見え、どこか頼りなく映っていたのだと思います。
ですが、親に見せている姿がその子の全てとは限りません。もしかすると、学校の部活動では仲間とアイディアを出し合ってテキパキと物事を進めているかもしれないのです。特に思春期の子どもの場合、場所によって自分の見せ方を変えている子もいます。
例えば、学校ではすごくおとなしそうに見えるのに、実は地域のダンスチームに所属していて全国大会に出場するほどの腕前だという子や、将棋や囲碁の大会で優秀な成績をとっているなんていう子もいました。あなたの見ているお子さんの顔は、お子さんの一面でしかありません。お子さんを「うちの子はおとなしい子だから」と思っていても、とっさの時には時速50キロで走れるカピバラのように、隠れた才能、能力を秘めているかもしれません。
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