一度のミスで「詰んだ」と感じる子に足りない「折れない心」はこう育つ

沼賀美奈子

AIがすぐに“正解”を示してくれる今の時代、子どもたちは失敗や想定外の出来事に弱くなりやすいともいわれています。「これからの時代に必要なのは、『失敗しない力』ではなく、『失敗しても立ち直れる力』です」と語るのは、昔ばなし研究者で3児の母でもある沼賀美奈子さん。

理不尽な出来事や大きな失敗を乗り越える物語が数多く描かれており、怖い思いやハラハラする展開を、安全な場所で疑似体験できる昔ばなし。そんな昔ばなしが子どものレジリエンスを育む理由について、ご紹介します。

※本稿は、沼賀美奈子著『本当の頭のよさが育つ昔ばなしの魔法』(青春出版社)より一部抜粋・編集したものです。

何度くじけても、立ち直れる

「あ、間違えた! もういい、やらない!」
宿題の途中で、消しゴムを投げ出すわが子。

「今日、学校に行きたくない。だって体育着が見つからないんだもん」
たかだか忘れ物をしただけで、この世の終わりのように絶望する。

そんな姿を見て、胸がザワザワし、イラッとする。そしてついつい、口をはさんでしまう。
「こんなことで折れていて、将来大丈夫なの!?」
「ちょっとの失敗で、投げ出すんじゃありません!」

現代の子どもたちは、失敗にとても敏感です。スマホやAIは、最短距離で正解を出してくれます。

失敗しないルート、無駄のない効率的な方法がすぐに手に入ります。便利さに慣れすぎた結果、子どもたちは「想定外のこと」に極端に弱くなっています。

地図がないと動けない。マニュアルがないと不安になる。一度のミスで「詰んだ」と、リセットする。

これは、性格が弱いのではありません。「正解」だらけの清潔な世界に慣れすぎて、心の免疫が落ちている状態なのです。

今の時代に本当に必要なのは、偏差値の高さではありません。電源が落ちても、地図がなくても、「まあ、なんとかなる」と腹をくくれる、ずぶとい生命力。

それが折れない力です。雑草のようにたくましいレジリエンス力です。

失敗を乗り越える「レジリエンス」を育む

どうすれば、そのずぶとさは育つのでしょうか。温室のように清潔な環境で育てていては、折れない力は身につきません。

そこで役立つのが、昔ばなしにあふれている理不尽なピンチと失敗です。昔ばなしの主人公たちは、親に森へ捨てられたり、悪い魔女に騙されたり、絶対に開けてはいけないと言われた扉を開けてしまったり、理不尽な目にあったり、自らとんでもない失敗をしたりします。

「そんな怖い話は教育に悪いのでは?」
「トラウマにならないの?」
そう心配する大人も少なくありません。たとえば、ノルウェーの有名な昔ばなし絵本『三びきのやぎのがらがらどん』(せたていじ訳、福音館書店)。

恐ろしいトロルを、やぎが退治するクライマックスで、こんな描写があります。「つのでめだまをくしざしに、ひづめでにくもほねもこっぱみじんにして、トロルをたにがわへつきおとしました。」

文字だけで見ると、非常に攻撃的でショッキングです。でも、実際に読み聞かせをしてみると、子どもたちの反応は大人とは正反対。

怖がるどころか、トロルがこっぱみじんにされた瞬間、多くの子どもたちは「やったー!」と大喜びで、心底ホッとします。

わが家の子どもたちもそうでした。なぜでしょうか?

それは、子どもが親のそばなど絶対に安全な場所にいながら、絶体絶命のピンチを乗り越え、悪者が退治されたという喜びと安心を受け取っているからです。

「今はすごく怖いし大ピンチだけれど、助けが来て、ハッピーエンドを迎える」
生の声を通じて、この理不尽な試練と回復のプロセスをたっぷり疑似体験すること。それこそが、現実のトラブルに対する強力な心の免疫になります。

けれど、昔ばなしが子どもに渡してくれるのは、「立ち向かう強さ」だけではありません。日本の昔ばなし「鉢かづき姫」には、また別の折れない力が描かれています。

このお話は、頭に鉢をかぶったまま生きることになった姫が、その姿のために人に理解されなかったり、つらい目にあったりしながらも、投げやりにならず、自分を失わずに生き抜いていく物語です。

『三びきのやぎのがらがらどん』が、目の前の恐ろしい相手に立ち向かい、突破していく力を見せてくれる話だとしたら、「鉢かづき姫」は、すぐに報われなくても、誤解されても、苦しい時間が続いても、心折れずに生きる姿を見せてくれる話です。

昔ばなしは、子どもにこう伝えています。人生には理不尽なことがある。でも、それで終わりではない。つらい時間の中にも、人生は続いていく。その感覚を、子どもは物語から受け取っています。

なぜ、ピンチでも心が折れない子になるのか?

免疫がつくと、子どもはたくましさを手に入れます。折れない力を持つことは、決して傷つかない鋼のメンタルを持つことではありません。

折れない力とは、傷ついても、へこんでも、元の形に戻ってこられる復元力のことです。

昔ばなしの主人公たちは、何度も失敗します。禁じられた部屋を開けてしまったり、約束を破ったり。

けれども、そこで物語は決して終わりません。失敗して絶望していると、不思議なおばあさんや動物など助けてくれる誰かが現れます。仲間ができることもあります。

昔ばなしの世界では、失敗は「終了」の合図ではなく、これから面白くなる展開への伏線にすぎないのです。

ピンチになってきたら「お、面白くなってきたぞ」。この感覚が心の片隅にある子は、現実でテストの点が悪くても、友だちと喧嘩しても、心が折れにくくなります。

「おっと、今は物語でいうところのピンチの場面だな。次はどうなる?」そんなふうに、渦中の自分をポンと高いところから俯瞰できるようになると、次の展開を待つ余裕が生まれます。

失敗しても、そこから立ち直り、自分の人生を取り戻す。これこそが、いつの時代にも必要な折れない力の正体です。


沼賀美奈子著『本当の頭のよさが育つ昔ばなしの魔法』(青春出版社)

超AI時代を生きていく子どもたちに必要な力は、実は「昔ばなし」で育てられます。

昔ばなしの読み聞かせで、AIと共に生きていくうえで必要な「折れない力・読み解く力・考えぬく力・生み出す力・つながる力」を一気に伸ばすことができるのです。

たった5分の昔ばなしの読み聞かせが、なぜ子どもの力を伸ばすのか――。その秘密とより効果的な読み聞かせの方法を、30年の昔話研究をもとにお伝えします。