クマよけの鈴って本当に必要?山へ行く前に知っておきたいクマの「音への反応」

山﨑晃司
2026.08.26 22:29 2026.08.27 11:50

登山をする父と子ども

ハイキングや登山、キャンプなど、山でのレジャーが増える季節。クマとの遭遇を避けるために、「鈴やラジオを持っていこう」と考える人も多いのではないでしょうか。

でも、鈴やラジオの音は本当にクマよけになるのでしょうか。「音を聞いてクマが近づいてくる」という噂もありますが、実際はどうなのでしょう?

クマの専門家、山﨑晃司先生の解説をご紹介します。

※本稿は、山﨑晃司(編著)『クマに出遭ってしまったら?』(PHP研究所)より一部抜粋、編集したものです。

音で人の存在を知らせる鈴・ラジオ

鈴やラジオは、クマに人の存在を知らせることができる効果的なアイテムです。

間違えてはいけないことは、爆竹やロケット花火のようにクマを驚かせて追い払うためのものではなく、あくまでも人の存在を事前にクマに知らせるためのものであることです。中には鈴やラジオを気にしないクマも一定数は存在する可能性があるでしょう。それでも、音に気づいて人を避けるクマが存在する限り、利用を否定する理由はありません。

鈴やラジオの音を聞きつけて、逆にクマが近寄ってくるという噂もありますが、日本ではそのようなクマはまずいないはずです。ただ、クマが音と人の持つ食物を紐づけて学習した場合は、音に引き寄せられるということが起こりうるかもしれません。

聞くところによると、東北地方のやぶの中でタケノコ採りをする人たちが、迷わないように出発点にラジオを置いて音を流していたそうです。ラジオと一緒に弁当を入れたバックパックを置いていたところ、ラジオの音がするところに食物があると学習したクマが近づいてくるようになったという話があります。真偽は不明ですが、クマの学習能力の高さを考えると、あり得ない話ではないかもしれません。

山の中

また、近年は北アルプスの特定の山域で、登山者に近づいてきたり、バックパックの中の食物をねらうツキノワグマの存在が報告されています。きっかけは不明ですが、登山者が食物を持っていることを学習したのでしょう。考えたくないことですが、登山者が不注意にクマに食物を与えた可能性もあります。人から食物を得られると学習したクマは、食物をめあてに人に近づく可能性があります。残念な顚末になりますが、こうしたクマは最終的には捕殺しなくてはなりません。

くり返しになりますが、だからといって鈴やラジオの音を頼りに近寄ってくるクマはほぼ存在しません。仮に近づいてくるとしても、人を襲って食べることが目的ではなく、あくまでも人が持っている食物が目的なので、鈴などの効果を否定する必要はないでしょう。

ただし、自然を楽しむために山に入る人にとっては、鈴やラジオは雰囲気を損ねる音源となりかねません。たとえば、登山パーティーの全員が鈴をつけて山を歩くと、まるで放牧されたヒツジの群れが近づいてくるかのようですし、ラジオから大音量で流れる甲高いパーソナリティーの声に興ざめすることもあるでしょう。

常に鳴らしておくのではなく、要所要所で用いるのでも構いません。最近の製品は音色がさまざまで、不必要なときには音を止めるストッパー付きの鈴もあります。人の耳で試した場合の音の聞こえ方はさまざまですが、クマにどのように聞こえているのかはわかりません。あまりに小さな音では効果が期待できないでしょうが、携帯する人の好みで選んでもよさそうです。

【POINT】
● 鈴やラジオの音で人の存在を知らせ、クマに立ち去ってもらう。
● ストッパー付きのものやさまざまな音色の鈴が市販されている。

山﨑晃司

山﨑晃司

茨城県自然博物館館長。東京農業大学名誉教授。
1961年東京都調布市出身。 森林動物生態学が専門。東京農工大学連合大学院博士(農学)。ザンビア国立公園局野生動物調査官、東京都高尾自然科学博物館学芸員、茨城県自然博物館首席学芸員、東京農業大学地域環境科学部教授を経て、茨城県自然博物館館長。元日本クマネットワーク代表、元International Association for Bear Research and Management 理事、IUCNクマ専門家委員会委員、東京都自然環境保全審議会鳥獣部会長、千葉県環境審議会鳥獣部会長、環境省鳥獣保護管理プランナーなどを務める。著書に『日本のクマ』(東京大学出版会・共編著)、『ツキノワグマ すぐそこにいる野生動物』(東京大学出版会)、『ムーン・ベアも月を見ている』(フライの雑誌社)、『クマとともに』(東京大学出版会・共著)など。

クマに出遭ってしまったら?

山﨑晃司(編著)『クマに出遭ってしまったら?』(PHP研究所)

クマに出遭ったら、どうすればよいのか。日本のクマ専門家たちが、クマに出遭わない工夫からクマに襲われたときの防御法までを解説。