最初は「うんこ」でOK!『やばい日本史』本郷和人先生に聞く「歴史を楽しむ力」の育て方

本郷和人

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2018年に発売された『東大教授がおしえる やばい日本史』(ダイヤモンド社)。歴史を学べるのはもちろん、ユーモアあふれるイラストや漫画が満載で、大人が読んでも楽しい児童書です。
2019年には『東大名誉教授がおしえる やばい世界史』、2021年には『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』、2026年4月には『東大教授がおしえる 超!やばい日本史』が発売され、シリーズ累計100万部を突破したとのこと。
このシリーズの日本史編の監修は、テレビでもおなじみの本郷和人先生。ここまで人気シリーズになった理由とは…?本郷先生にお聞きしてみました!(取材・撮影/nobico編集部・次重浩子)

平安貴族にとって、庶民は「虫けら」だった?

――本郷先生は長く東京大学史料編纂所の教授を勤めてこられた研究者の方ですよね(2026年3月に退任され、現在は藤田医科大学特命教授・リベラルアーツセンター長)。児童書は畑違いだと思いますが、この本の監修をされるにあたって、先生が「子ども向け」として意識されたことはありますか?

本郷:子どもはうんこが好きなので、うんこをいっぱい入れました!

――やっぱり!この本、うんこがいっぱい出てきますもんね。

本郷:…っていうのは冗談で、歴史を作るのは人間なので、努めて人間臭い話を入れるようにしました。
人間の本質的な問いって、結局「人間ってなんだろう」っていうところだと思うんですよね。歴史人物の人間性を知ることは「人間ってなんだろう」を考えるうえで、意味があることだと思います。

戦国時代ぐらいだと、悲しいとか嬉しいというものの感じ方や、人間関係の作り方が僕らとそんなに変わらないと思うんですよ。でもさらに時代を遡ったとき、「同じ人間だから同じようなことを考えているんだろう」と過信しすぎるのは、ちょっとまずい。

――というと、どういうことでしょうか?

本郷:平安時代の清少納言や紫式部といった貴族たちは、庶民を見る時に「虫けら」を見るような感じになっちゃうんですよ。それは彼女たちが悪いわけじゃなくて、そういう社会だったということ。

他にも「京都以外の土地は人が住むところじゃない」と本気で考えていた、とかね。今でも京都の人は「まあこれは冗談どすえ」とか言いながら似たようなこと言うじゃないですか(笑)。紫式部たちは本気なんですよね。時代がそういう時代だったということです。

そのあたりを説明すると難しくなっちゃうので、この本であえて解説することはしなかったんですが、和田ラヂヲさんのイラストや横山了一さんの漫画が、うまく笑いに変えてくれている部分はあります。なので、もう少し歴史を勉強していくと、「この時代は感じ方が違うんだ」っていうのがわかってくるので、それはそれでまたおもしろいと思いますよ。

どんなにすごい人でも「すごい」だけじゃない

――なるほど。この本の特徴は、歴史人物たちの「すごい」事績だけでなく、「やばい」一面も紹介されているところだと思うんですが、それはやはり「人間臭さ」を出したということですか?

本郷:そうです。どんなにすごい人でも、すごいだけじゃないんですよ。やっぱり人間臭さというのがあって、そういうところも見ようねっていう。

「やばい」という言葉がすごく便利で、「このラーメンやばいよね!」とか若い方が言うと「とてもおいしい」っていう意味になるじゃないですか。だから、「すごくいい」と「すごく悪い」の両方で使える。

――ここでの「やばい」は「ダメ」だけじゃなくて、「常識を超えている」という意味もありそうですね。

本郷:室町時代初期では、そういうのを「ばさら」っていうんですよ。戦国時代だと「傾奇(かぶき)」。それと似てるかもしれませんね。

「本物」よりも「偽物」のお城?

――そうすると歴史上の人物も身近に感じてきますね。ただ、歴史が好きじゃない子もいるじゃないですか。歴史に興味を持ってもらうにはどうしたらいいと思いますか?

本郷:なにか興味がわいたら「おもしろい」を追求するのがいいと思いますよ。僕は。

最近、「ああそうなんだ」って今さらながらに思ったことがあるんですよ。

僕、バスツアーに歴史解説者として同行してるんです。いま大河でやってる『豊臣兄弟!』の足跡を巡る旅とかで、お城を巡ったりするんですが、当時のお城は残っていなくて、後世に造られたものが多い。僕は研究者だから、当時の仏師が彫った仏像とか「本物」を見たいと思うんだけど、ツアーでは、偽物のお城でいいから、そこに豊臣兄弟の「物語」を感じられる企画のほうが人気あるんですよね。

僕は「えっ!?」て思ったんだけど、研究者から「こんな解釈、見たことないでしょう?」っていう新説を披露されたり、実物を見るよりも、「物語」を感じられるほうが刺さるんだな。

「正解以外は認めない」だと、想像力がしぼんでしまう

――なるほど。じゃあ、ドラマとかマンガとか「物語」を入口にするのはよさそうですね。この本でも「それは後世の創作なんじゃないか」と言われているような逸話も積極的にとり入れているように見受けられました。

本郷:そうなんです。学問的にちょっと難しいことを言うと、歴史学だけじゃないんですよ。社会学なんです。例えば真田幸村(信繁)のような、江戸時代に作られたスーパースターがいるんですよね。その人がどういう風に描かれているのか、どうしてスーパースターになったのか、これが社会学。これもある意味日本史のおもしろいところです。

でも、「これは嘘だ」「創作だ」って騒ぎ立てて否定する人がいるでしょう。そんなの僕はバカなことだと思っています。これまでいろんな研究者や小説家が作り上げてきたものを、そんなふうに片っ端からつぶしていったら、学問世界がどんどん縮小してしまう。

僕は、嘘でもいいから楽しい方がいいじゃんって思いますけど、一次史料の編纂に携わってた僕みたいな人間がそういうことを言うと「自分の立場をわかってない!」とかいっていじめられるんですよね。

でも、「これはダメだ」「あれはダメだ」って言うような、頑固じじいにはなりたくないなと思って。

なんでも「正解以外は認めない」というスタンスでいると、物事を想像する力もしぼんでしまうと僕は思う。

――そこは否定せずに、歴史を楽しんでもらうために入れていらっしゃるんですね。

「徳川家康は武田信玄との戦に負けてうんこをもらしたらしいぞ」とか書かれていたら、家康ってどんな人なんだろう、とか、このときはどんな戦いだったんだろう、とか興味がわいてくるじゃないですか。そうやって「おもしろい」を掘り下げていったほうが楽しい。

子どもさんが大きくなった時に、この話は実際とは異なるようだとか、これは創作っぽいなとか、そういう話になってくるのかもしれない。けど、それは人間が成長すれば当然出てくる話。なので、まず好きになるためにおもしろい歴史を学ぶほうが僕はお勧めだと思いますよ。

東大教授がおしえる やばい日本史本郷和人監修,滝乃みわこ執筆,和田ラヂヲイラスト,横山了一マンガ『東大教授がおしえる やばい日本史』(ダイヤモンド社)

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