いくつですか?の文章題に「11つ」と答えてバツに…小1がぶつかった数え方の壁

飯田朝子
2026.06.19 15:07 2026.06.29 11:50

勉強する女の子
生き物はみんな「匹」で数えていい?
「いちひき」ではなく、なぜ「いっぴき」?
子どもが小学校に上がる前後でぶつかりやすい「数え方」の壁に、親はどう寄り添えばいいのでしょうか。

数え方を学べる絵本『ぽんぴきぱいのぽん』(エンブックス)の著者で、数え方研究の第一人者である飯田朝子先生にインタビュー。先生自身が子どもの頃に経験した算数の文章題での「つまずき」や、大人がやりがちな先回りした修正の落とし穴など、家庭での言葉がけのヒントを語っていただきました。

(取材・文:nobico編集部)

丸暗記しないのがおすすめの理由

──子どもが「ものの数え方」を理解し始めるのは、だいたい何歳頃からなのでしょうか。

 発達段階は子どもによってバラバラなので、一概には言えません。

最初は「一個二個」や「一つ二つ」から、世の中には数を数える言葉があるんだな、と気づき始めると思います。

わが子の場合は、3〜4歳の頃に年齢を「三つ」と言ったり、高い高いのときに「もう一回」と言ったりしていました。年齢や動きに対して、数字の後ろに違う言葉をつけるんだな、ということには、その年齢でも気づいている感覚があります。

ただ、ものの形や生き物かどうかによって本格的に数え分けていくのは、小学校に入る手前くらい(5〜6歳)じゃないかなと感じています。

──大人は当たり前に使っている日本語の「数え方」ですが、子どもにとってはやはり難しいものでしょうか。

 子どもが小学1年生くらいのタイミングで、数え方に対して「やだな」「面倒くさいな」と苦手意識を持つケースが多いと感じます。

個数によって音が変わる連濁(れんだく)も、子どもにとっては難しいですよね。
 私の大学には留学生が多く、彼らも「いっぽん・にほん・さんぼん」といった音の変化にものすごく苦戦しています。

小さな子どもたちは、数え方を丸暗記するのではなく、まずは生活の中で声に出して数えながら、音の感覚を体得していってくれたらいいなと思いますね。

絵本『ぽんぴきぱいのぽん』でも大切にした部分ですが、とりあえずはじめは「ぽん」とか「ぴき」、「ぱい」といった音のおもしろさを、親子で純粋に楽しんでもらえたらと思います。

『ぽんぴきぱいのぽん』より
『ぽんぴきぱいのぽん』より

モヤモヤが爆発し、専門家の道へ

──先生ご自身は、子どもの頃、数え方につまずいた記憶はありますか?

やはり小1の時、算数の文章題でつまずきました(笑)。私は昭和の人間なのですが、私たちの頃って、ものの数え方を国語の教科書でわざわざ取り立ててやらなかったんですよね。

たとえば「たかしくんは鉛筆5本と消しゴム6個を買いました。合わせていくつ買ったでしょう?」という問題が出たとします。「5+6=11」の計算はできるんですよ。でも、問題文が「いくつ」と聞いているから、どう答えたらいいんだろうと悩んでしまって。テストの解答欄に素直に「11つ」って書いたら、バツをもらったんです。

正解は「11本」だったわけですが、「『いくつ』って聞いてるのになんでバツなんだ!」って、子どもながらにものすごく憤りまして(笑)。そこが私のつまずきポイントでした。それ以来、文章題を解くには数字だけじゃなくて、数え方の知識もないと正解をもらえないんだな、と感づいたんです。

──子ども時代に数え方でつまずいた先生が、数え方の研究の道に進まれたきっかけは何でしょうか。

モヤモヤが高じてここまで来ちゃった、と言っても過言ではないです(笑)。

私は高校時代、落語研究会(落研)に所属していました。落語の中には昔の古い数え方がたくさん出てくるので、「昔はなんでこういう数え方をしたんだろう」と、薄らぼんやり不思議に思っていたんです。

それが決定的なモヤモヤに変わったのが、大学生のときでした。外国の方に日本語を教えるアルバイトをしていたのですが、生徒がみんな「おかしいじゃないか!」って怒り出しちゃって。

──生徒たちは何に怒っていたのでしょう?

「一本、二本の『本』が意味不明だ」と。「鉛筆、木、傘が『一本』なのは細長いから分かる。じゃあ、なんで映画、電車、ホームラン、柔道の一本も『本』なんだ!あれのどこが細長いんだ!」と詰め寄られたんです(笑)。

そのとき、20年以上日本語を使ってきた日本人なのに、全く説明ができなかった。「そもそも『一本』って何だろう?」と。そんなモヤモヤが爆発して研究を始めたら、いつの間にかこうなっていました。

子どもの数え間違いはすぐに直さないほうがいい

勉強をする親子

──小学生くらいになると、学校の勉強の中で「正しい数え方」を求められるようになりますよね。親は子どもが間違えたら、その都度正しい数え方を教えてあげた方がいいんでしょうか。

 「正しさのレベル」が難しいところですよね。親はすでに日本語をマスターしているのでつい直したくなりますが、実は数え方って、子どもの「ものの捉え方の発達段階」と深くリンクしているんです。

たとえば子どもは最初、「人間」と「動物」は違うと気づいて、人を「一人」、動物を「一匹」と、数え方を分けていきます。そのあと、学校やテレビ、YouTubeなどで色々な言葉に触れるうちに、ものの形や性質に合わせて自分の中の整理棚をさらに細かく分けていくんです。

そのプロセスの途中で、親が無理やり「イカは一匹じゃなくて一杯だよ」と教えてしまうと、子どもは「イカみたいにくにゃくにゃしたものは全部『杯』って数えるのかな?」などと、勘違いした覚え方をしてしまうことがあります。

──では、どのようにアプローチすればいいのでしょうか?

まずはベースとなる「生き物は一匹」をマスターできていれば、それでOKとします。イカを一匹と数えても、何ら間違いではないので。

その上で、さらに高度な数え方を教えてあげたいなと思ったら、実際にイカを買ったり食べたりするときに、「知ってる?イカって『一杯』とも数えるんだよ」と、雑学のような形で教えてあげる。

すると子どもは「イカは違うんだ!」と興味を持って、自分から数え方の引き出しを増やしていくことができると思います。

80種類使えればOK!面倒くさがらずに「心にメモ」を

──最後に、これから数え方を学んでいく子どもたちや、親御さんに向けてメッセージをお願いします。

 日本語の数え方は500種類以上もありますが、私が調べた範囲だと、普通の日本人の大人は 80種類ぐらい知ってれば日常に支障はないんですね。ちょっと日本語にうるさい人だと120種類ぐらい使えますが、80種類ぐらいが使い分けの成熟度としてはいい目安だと思います。

大切なのは、何でも「一つ、二つ」と適当に数えてしまうのではなく、「これって他にどんな数え方があるかな?」と、自分の中で一歩立ち止まって検索してみる習慣をつけることです。

「これはどう数えるんだろう?」と心の中にメモする習慣がつくだけで、自分の中の数え方辞書はどんどん広がっていきます。ぜひ面倒くさがらず、親子でどんどん語彙をふやしてほしいなと思います。

数え方に困ったら、お父さんお母さんも、子どもと一緒に「どう数えるんだろう」「なんでこの数え方なんだろう?」って調べてみてください。「なんでだろう」と思うこと自体が大事なんです。

飯田朝子

数えかた研究の第一人者で、中央大学 国際経営学部 教授。1999年、東京大学大学院 人文社会研究科 言語学専門分野 博士課程修了、『日本語主要助数詞の意味と用法』で博士(文学)を取得。主著に『数え方の辞典』(小学館)、『数え方でみがく日本語』(ちくまプリマー新書)、『みんなでつくる1本の辞書』(福音館書店)等。2019年より日本ネーミング協会理事。

ぽんぴきぱいのぽん

飯田朝子(作), 武者小路晶子(絵) 『ぽんぴきぱいのぽん』(エンブックス)

「数えかた」が楽しく学べる物語絵本

「まほうようちえん」に入園した子どもたちが学んだのは、食べものや生きものを出す「ぽんぴきぱい」の魔法。
この魔法の言葉をうまく使いこなすには、きちんと「数えかた」のルールを覚えないといけません。例えば、きゅうりを1本出したいときは「ぽん」、かえるを2匹出したいときは「ひき」と、間違えずに数えることが大切です。
ところが帰り道、こっそり魔法を試してしまった子どもたちの前に、思ってもみない生き物が現れて大ピンチ!……

知的好奇心が芽生える4歳ごろのお子さんにおすすめです。読んでいるうちに、いつのまにか数えかたマスターに!