宮沢氷魚さん流「絵本の読み聞かせ方」とは?『すすめ、ウミガメ』翻訳に込めた仕掛け
動物絵本シリーズ第7弾の『すすめ、ウミガメ』は、真夜中の浜辺で生まれたウミガメのトゥーラが、海を目指すレースの途中で弟・タイニーの異変に気づき、危険をかえりみず行動を起こす物語です。
本作の翻訳を担当したのは、俳優の宮沢氷魚さん。『ほしがりやのクジラ』に続き、宮沢さんにとって2作目の翻訳絵本となります。
インタビュー前編となる本稿では、タイトル、言葉選び、文字の大きさまでこだわった、絵本翻訳の裏側を聞きました。
この作品を読者に届けられる喜び
――『すすめ、ウミガメ』を最初に読んだ時、どのような感想を持ちましたか。
【宮沢】「なんて素晴らしい絵本なんだろう」と思いました。『ほしがりやのクジラ』の時にも感じたことですが、絵の力がとても強いんです。そして、その絵をサポートする言葉が、うまく添えられている作品だと思いました。
このシリーズは、毎回とても難しいテーマを扱っています。それでも硬くなりすぎず、読者に寄り添うように表現されているんですね。作者のレイチェル・ブライトさんも、ジム・フィールドさんも、そのバランスが本当に上手です。
だからこそ、日本語に訳す時には、そのニュアンスを絶対に残したいと思いました。英文が魅力的なので、「物語をうまく表現する言葉が見つけられるだろうか」という不安もありましたが、翻訳者として作品を読者に届ける一員になれる喜びもあったんです。
「難しいな」という気持ちと、「早く翻訳したい」という気持ちが、行ったり来たりしていましたね。
『すすめ、ウミガメ』というタイトルにたどり着くまで
――本作の原題は「THE TURTLE WHO TURNED THE TIDE」で、直訳すると「流れを変えたウミガメ」といった意味になります。それを『すすめ、ウミガメ』と訳されていることに驚きましたし、作品にもぴったりだと感じました。このタイトルはすぐに思い浮かんだのでしょうか。
【宮沢】いえ、結構時間がかかりました。10個近く、いろいろなタイトル案を考えたんです。悪くないものもあったと思うのですが、どれもしっくりこなくて。他にどんな案を出したかは、もうすべて忘れてしまいました(笑)。
最初は、英題をそのまま日本語でどう表現するか、ということを考えすぎていたんだと思います。ただ、「ちょっと無理かもしれない」と一度全部忘れようとした瞬間、ふっと『すすめ、ウミガメ』というタイトルが浮かんできて、「あ、これだ」と思いました。
すごくシンプルですが、この物語の軸やメッセージが凝縮されたタイトルになっていると感じたんです。一応、第3候補くらいまで提出はしたのですが、僕の中では「これしかない」という思いでした。

――力強くて、素晴らしいタイトルだと思います。そのほかに、翻訳していて特に手応えを感じた文章や場面はありますか。
【宮沢】一番最後のページですね。
それまでは、ウミガメが生まれて海に向かい、弟を助けるという、比較的限られた世界の中で物語が描かれています。それが最後の1、2ページで、一気に壮大な物語になるんです。この作品が一番伝えたいメッセージが、広い世界の中で表現される。
その壮大さに、最初はうまく自分をチューニングできませんでした。第一稿、第二稿、第三稿と送るうちに少しずつ良くはなっていったのですが、「最後の最後でうまくまとまらないな」という感覚が、自分の中にずっとあったんです。
そこで、一度すべてを消して書き直しました。新たな気持ちで書いた最後の1、2ページが、すごくしっくりきたんです。
改めて、ものを作る過程では、最初に出来上がったものを一度壊す勇気が必要なんだなと思いました。最初のインスピレーションにも、それなりの魅力はあります。でも、そこに執着せず、思い切ってまっさらにしてみたら、結果的にそれが良かった。その勇気を持てたことは大きかったですね。
物語の色が変わる、ヘビが登場する場面
――特にお気に入りの場面や、注目してほしいシーンはありますか。
【宮沢】ヘビが出てくる場面は、自分なりに手応えがありました。
あの場面は、ある意味で物語のターニングポイントです。緊張感が出てきて、物語の流れがガラッと変わるページでもあります。
突然出てくるヘビの怖さや、ずる賢さのようなものを、オノマトペでうまく表現できた気がしています。個人的にも好きなページですね。
――あの場面は、読み聞かせをする時にも腕の見せどころだと感じました。
【宮沢】そうなんです。子どもたちが、よりその世界に没頭できるページにしたいという思いがありました。
そこで、「シューシュー」というヘビの声を入れたり、「ニョロニョロ」という言葉を使ったりしました。ヘビがふっと懐に入ってくるような感じを表現できたかなと思います。
声に出して読むことで、物語の波に乗れる
――文字の大きさにも工夫が見られました。声に出して読みたくなる作りだと感じたのですが、どの言葉を大きくするかは、どのように選んだのでしょうか。
【宮沢】翻訳の時点で、「ここはアクセントを足したい」と思うものについては、フォントを大きくしたいという希望をある程度出していました。
その後、デザイナーさんが作ってくださったものを見ながら、「ここの字はもう少し小さく」「この絵に被らないように」といった最終的な微調整にも、僕の意見を入れさせていただきました。もちろん僕一人で作ったものではなく、いろいろな方の意見が反映されて完成したものです。その過程も楽しかったですね。
ページのデザインにも自分の意見が投影されて、絵にも少しアクセントを加えられたことは嬉しかったです。
――おすすめの読み聞かせ方はありますか。宮沢さんなら本作をどう読まれるでしょう。
【宮沢】皆さんが好きなように読んでいただくのが一番ですが、僕は翻訳していることもあって、主人公に感情移入している部分があります。トゥーラでも、タイニーでもいいのですが、その子になった気持ちで読んであげると、自然と物語の波に乗れると思います。
喜怒哀楽もそうですし、自然と声が大きくなる場面もあれば、ひそひそと静かな声で話したくなる場面もある。難しく考えずに、登場している生き物になった気持ちで読むのが一番かなと思います。



































